サッカーの話をしよう
No.967 ラインの話
きょうは「ライン」の話である。
平たんな発音の「ライン」ではない。頭にアクセントがくる「ライン」、サッカーのピッチ上に描かれ、ピッチの境界線や各種のエリアなどを示す線だ。
数学で「ライン(直線)」と言えば幅はゼロということになっているが、サッカーのラインには幅がある。
「トイレットペーパーとサッカーのラインではどちらが太いか」という有名なクイズがある。トイレットペーパーは11.4センチ。ラインは12センチ。サッカーのラインのほうが太い。
ルール第1条に「ゴールラインの幅はゴールポストおよびクロスバーの厚さと同じでなければならない」という規定がある。ポストとバーの厚さは12センチ以下と決められていて、実際には公式戦で使うゴールはすべて厚さ12センチになっている。そして「すべてのラインの幅は同じ」という規定から、サッカーのラインはすべて12センチの幅で引かれることになる。
さて、ラインに関して最も重要な規定が、やはりルール第1条に記されている。
「エリアの境界線を示すラインはそのエリアの一部である」
選手、審判、そして観客が明確に認識できるように、真っ白い塗料(あるいは石灰)を使い、幅12センチで引かれるライン。だが大事なのはその外側の縁(ふち)だ。そこが本当の境界線となる。より正確に言えば、その境界線から垂直に伸びた「面」が、ラインが規定するエリアの境界となる。
球形のボール。接地面がタッチラインから外れていても、空中で一部が境界内にある場合はまだインプレー。ライン上からしっかり見ないとわからない。
タッチラインでは選手たちもまだ鷹揚だ。しかしこれがゴールの枠内のゴールラインだとそうはいかない。ボールが完全に境界を越えたかどうかは、すなわち得点かどうかで、勝敗に大きく関係するからだ。
人間の目での判定だけという150年間の伝統を破り、科学技術を用いた「ゴールラインテクノロジー」が正式に認可されてワールドカップでも使われるのは、ボールが完全にゴールラインを越えたかどうかの判定が時として非常に難しくなることを示している。
ところで、「ラインはエリアの一部」の原則から外れるラインがひとつだけある。ハーフウェーラインである。ピッチを二分するこのラインだけは、その中央が本当の境界線。あまり知られていないが、実はオフサイドの判定に大きな影響があるポイントだ。
(2014年1月29日)
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