サッカーの話をしよう
No.971 王国に挑む日本のボランチ
「ブラジルではね、試合を決めるのは9番ではなく5番だと言われているんだよ」
読売クラブの監督をしていた故・相川亮一さんからそんな話を聞いたのは、80年代のはじめのころだった。
「9番」や「5番」は背番号であり、試合ごとに1番から11番まで背番号をつけるのが普通だった当時は、同時にポジション名でもあった。9番はセンターフォワード。そして5番はDFラインの選手ではなく、守備的なミッドフィルダー、現在でいう「ボランチ」のことだ。
ワールドカップで3回目の優勝を達成した70年大会でブラジルの5番をつけていたクロドアウド、80年代初頭に不動の5番だったトニーニョセレーゾ(現鹿島監督)らのプレーを見て、ブラジルのサッカーにおける5番の重要性は私も理解していた。守備ラインの前で防御の網を張るだけでなく、ボールを受けて自在に攻撃をあやつる彼らのプレーが、自由奔放な攻撃の土台となっていたからだ。しかし「9番以上」という言葉は驚きだった。
その後の82年ワールドカップで、ブラジルが5番のトニーニョセレーゾとともに15番(本来は5番の控え)を付けたファルカン(元日本代表監督)を並べて使い、センセーションを起こした。中盤を支配することの戦術的な重要性が大きくクローズアップされるようになったのだ。
先週水曜日に行われた日本代表のニュージーランド戦は、課題も出たが、同時に、うれしい驚きもあった。代表4試合目の青山敏弘(広島)と9試合目の山口蛍(C大阪)のふたりが先発でボランチのコンビを組み、攻守両面でハイレベルなプレーを見せたことだ。
昨年までのザック・ジャパンでは、ボランチは遠藤保仁(G大阪)と長谷部誠(ニュルンベルク)が鉄壁のコンビを組んでいた。しかし国内組だけで臨んだ7月の東アジアカップ(韓国)で青山と山口が好プレーを見せ、山口は11月のベルギー遠征で主力のふたりに割ってはいる勢いを示した。そしてそこに青山も加わり、選手層は一挙に厚くなった。
ザッケローニ監督が標榜する「日本のスタイル」とは、選手の動きとパスが有機的にからむコンビネーションサッカー。その土台が安定したのは、小さからぬ意味がある。
ブラジルは今回もパウリーニョ(トットナム)らワールドクラスのボランチを並べている。しかし日本のボランチも「王国」のファンに強い印象を与える力を十分もっている。
(2014年3月12日)
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