サッカーの話をしよう
No.975 キャンプ地選定に問題はないか
ワールドカップ・ブラジル大会開幕まであと64日。スタジアム完成は時間との競争になってきたが、主役であるブラジル代表の合宿所は余裕をもって大改装が完了した。
大会中ブラジル代表が暮らすのは、リオデジャネイロから北へ50キロほどのテレゾポリスという町。ブラジル・サッカー協会のトレーニングセンターだ。
4面のサッカーグラウンドと高級ホテルのような宿泊施設。パイプオルガンを思わせる奇峰が並ぶ「オルガン山脈国立公園」のふもと、標高870メートルの高原の町だ。ここを拠点に、「カナリア軍団」はサンパウロ、フォルタレザ、そしてブラジリアへと出掛けていって1次リーグを戦う。
さて、わが日本代表がサンパウロ州のイトゥをキャンプ地に選んだのは、小さからぬ驚きだった。初戦はレシフェ、第2戦はナタル。ブラジル北東部の海に面した町での試合が続いた後、第3戦はクイアバ。3会場とも6月の平均気温は25度を超す。当然、キャンプ地は北東部になると考えていたからだ。
イトゥはサンパウロ州の都市で、6月の平均気温は15度程度。余談ながらイトゥを本拠とするサッカークラブ「イトゥアノ」は、東京ガス時代から12年にわたってFC東京の攻撃を牽引した「キング・オブ・トーキョー」アマラオが20代の前半にプロとして飛躍したクラブである。
だがイトゥは3つの試合会場と気候がかなり違ううえ、レシフェとナタルへは2000キロ以上、クイアバへも1400キロもの旅行をしなければならない。
日本と同じC組のギリシャはブラジル東北部のアラカジュを根拠地とする。移動距離は日本の半分以下。しかも試合会場とほぼ同じ気候の下でトレーニングできることになる。
現在の日本代表は、間違いなく日本のサッカー史上最強のチームだ。ワールドカップのベスト8、さらにその先への期待も、夢物語ではない。だがそのためには、すべての準備がチームにプラスになるものでなければならない。無関係な要素を無理に入れて調整に失敗した2006年大会の二の舞いは、断じてあってはならない。
「集中してトレーニングができ、リラックスもできる。近くの空港まで30分で移動できる」と、日本サッカー協会の原博実専務理事はイトゥのメリットを強調しているが、今回のキャンプ地決定に、好成績のため以外の無関係な要素はなかったのか。それが杞憂(きゆう)であることを願わずにはいられない。
(2014年4月9日)
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