サッカーの話をしよう
No.977 代表選び、どこに注目するか
ワールドカップ・ブラジル大会の日本代表発表(5月12日)まで3週間。ザッケローニ監督は精力的に欧州を回り、Jリーグでは候補選手たちの奮闘が続いている。誰が23人にはいるのか、最後まで予断は許さない。
だがワールドカップ代表メンバーは「人気投票」ではないし、実力順に選ばれるわけでもない。決勝まで進めば合宿入りから50日間以上をともに過ごすことになるチーム。あらゆることを想定に入れてこの長期間を戦い抜くことのできる集団をどうつくるか、監督の考えが反映される。
基本的には、GK3人(大会規約で決められている)とフィールドプレーヤー20人。1ポジションに2人ということになる。しかしそれだけでは戦い抜くことはできない。
今月はじめに世界大会制覇を成し遂げたU-17日本女子代表(リトルなでしこ)は、決勝までの6試合で登録した21人の全選手にプレー機会を与えたが、ワールドカップではそうはいかない。出場機会に恵まれない選手も当然出てくる。そうした選手が練習や合宿生活でどんな態度をとるかが、チームの士気に大きく影響する。
2002大会では、トルシエ監督がFW中山雅史(当時34歳)とDF秋田豊(31歳)を23人のなかに含めた。ほとんど出番はなかったものの、ふたりは練習で常に大きな声を出してけん引車となり、明るく前向きな雰囲気をつくって大きな役割を果たした。
2010年大会では岡田武史監督がメンバーにGK川口能活を加えて衝撃を与えた。普通なら3人のGKの名を挙げるだけのはずだが、はっきりと発表時に「第3GK」と指定したからだ。
当時34歳の川口は、1998年から3大会連続出場してきた経験豊富な選手だったが、前年9月に右足を骨折し、この年には所属の磐田で1試合も出場していなかった。しかし岡田監督はすでにプレーできる状態であることを磐田に確認し、川口のキャラクターを買って23人のなかで出場の可能性が最も低い「第3GK」に指名したのだ。好成績のバックボーンに川口の存在があったのは間違いない。
2011年のアジアカップ優勝時に、出場機会のなかったDF森脇良太が明るく前向きの姿勢を貫いたことをザッケローニ監督は高く評価した。当然、中山、秋田、川口らがかつてワールドカップで果たした立場への理解はあるはずだ。ではブラジルでは誰がその役割を果たすのか―。私はそこに注目している。
(2014年4月23日)
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