サッカーの話をしよう
No.979 ザッケローニの『夢』
「私が夢を見るのは寝ているときだけ。監督として目の前にあることをしっかりと把握するよう努めている」
ワールドカップ日本代表チーム発表の記者会見で、アルベルト・ザッケローニ監督(61)はこんな話をした。一瞬でも気を抜いたりあいまいにすることを許されないプロのサッカー監督としての自負が感じられる言葉だ。
しかし歴代の日本代表監督のなかでも、彼ほどのロマンチストはいないのではないか。選ばれた23人のメンバーを見ながら、そんな思いを抱いた。
メンバー選考には、監督の考え方が最も顕著に出る。失点を防ぐことから考える人、攻撃をつくることに主眼を置く人...。ザッケローニ監督に聞けば「どちらでもだめ。バランスが大事」と答えるだろうが、間違いないのは、今回の23人がサッカーを「つくる」ためのチームであり、「こわす」ためではないということだ。
ボランチには、ずっと選ばれてきた細貝萌(ヘルタ・ベルリン)ではなく青山敏弘(広島)を選んだ。2年以上も選ばなかったFW大久保嘉人(川崎)をチームに加えた。DF8人、MF4人、FW8人というバランスは、まさに「攻撃の手を休めないぞ」というメッセージそのものではないか。
ザッケローニ監督は就任当初から日本選手たちの攻撃的な才能を認め、それを最大限に生かすことが日本のサッカーを成長させる力になると考えてきた。アルゼンチンと対戦した彼の日本初戦でも、メッシなど相手の名前を恐れずに攻めることを求め、1-0の勝利をつかんだ。昨年アウェーで戦ったベルギー戦でも、攻撃し続けることで勝利に導いた。
それは、彼の祖国イタリアと違い、守ろうとしても守りきる力はないとの判断の裏返しでもある。守りに回らず攻め続けるところにこそ勝機が訪れる...。結果としてロマンチストにならざるをえなかったのかもしれない。だがおかげで、日本代表を見る喜びはこの4年で大きくなった。
「チームに成績のノルマを課することはしない。相手を気にするより、自分たちのサッカーに集中して、勝利に近づきたい」
ザッケローニ監督と23人の選手たちは、4年間で積み上げたパスをつなぎながら集団で攻め崩すサッカーを引っ提げて「ブラジル」に臨み、上位進出を目指す。それが可能かどうか、いまやすべてはコンディションづくりにかかっている。私たちもその夢を共有し、応援していきたい。
(2014年5月14日)
1993年から東京新聞夕刊で週1回掲載しているサッカーコラムです。試合や選手のことだけではなく、サッカーというものを取り巻く社会や文化など、あらゆる事柄を題材に取り上げています。このサイトでは連載第1回から全ての記事をアーカイブ化して公開しています。最新の記事は水曜日の東京新聞夕刊をご覧ください。