サッカーの話をしよう
No.980 フェアではないフェアプレー
J2ファジアーノ岡山を率いて5シーズン目になる影山雅永監督は、誰かが倒れても、選手が自らボールを出す「フェアプレー行為」を禁じている。
「カウンターアタックに行かなければならない場面でプレーを止めたことがあった。うちの選手には勝負への執着心が足りない」
5月17日のJリーグ第14節。浦和に0-1で敗れた試合後の記者会見で、C大阪のランコ・ポポヴィッチ監督があきれ顔で語った。
まだ0-0だった後半なかば、相手陣に攻め込んだ浦和のMF宇賀神が相手と衝突して倒れた。ボールを奪ったC大阪は右タッチライン沿いにFW柿谷に送る。カウンターのチャンスだ。ところが柿谷は宇賀神が倒れたままなのを見てスピードを落とし、ボールをタッチラインの外に出してしまったのだ。
サッカーは接触プレーのある競技。倒れて動けない選手がいたら主審の笛を待たずに選手が自主的にボールを外に出してプレーを止め、治療や診断に当たらせる―。試合相手は「敵」ではなくサッカーを楽しむ「仲間」。フェアプレー精神の表れとして、世界に広まっている行為だ。
しかし最近のJリーグでは、状況や危険度を考えず、倒れたままなら自動的に外に出すケースが頻繁にある。出さなければならないという空気があるのも気になるところだ。
何よりも、倒れて起き上がらない選手が多すぎる。骨折など重大な負傷ならともかく、痛いだけであることがわかっているのに寝転んだまま立たない選手はプロ失格だ。それ以前にサッカー選手としての適性に欠ける。
プレーを止めなければならないのは、頭の強打など重大な負傷の恐れがある場合だ。また倒れたままの選手がゴール前にいてそこにボールが放り込まれるなどの状況なら、選手が自らボールを外に出すのが「仲間」としてふさわしい態度だ。
だが浦和対C大阪戦のケースでは、宇賀神は自らの無理なプレーで倒れ、悪くても足の打撲か捻挫だった。しかも柿谷がボールを受けたのは浦和陣に10メートル以上もはいった地点。そこから攻撃しても、宇賀神には何の危険もなかった。急に止まってボールを出したのには、あぜんとした。
ワールドカップではフェアプレーを貫いてほしい。だがボールを出すべき状況とそうでないところは決然と分けなければならない。原則は、影山監督が言うとおり、主審のプレーが吹かれるまでプレーを続けることだ。
(2014年5月21日)
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