サッカーの話をしよう
No.991 差別との戦いはサポーターとの戦いではない
「規制を繰り返せば解決する問題とは思っていません」
横浜F・マリノスのサポーターが川崎フロンターレの黒人選手に対して人種差別を示す行為をしたことに対する横浜FMへの制裁を発表する記者会見(8月29日)で、Jリーグの村井満チェアマンはこう話した。
ことし3月に浦和レッズのホームゲームで差別的内容の横断幕が掲出され、クラブの対応が悪かったこともあって1試合の無観客試合という厳しい処分が下された。以後、浦和はホーム・アウェーにかかわらずサポーターに横断幕や自分でつくった応援旗などの掲出を禁止している。
スポーツの観戦や応援は、本来、平和な場のはずだ。チームの区別や勝敗にかかわらずそこにいるすべての人がともにスポーツを楽しむ―。守らなければならないのは、決められた競技規則、そして互いへのリスペクトの気持ちだけ。差別とは対極のものだ。
そのスポーツ観戦・応援の場で差別的な表現が行われたら、スポーツは断固戦わなければならない。サポーターや地域の人々と徹底的に話し合い、ともに考えながら差別と戦うとした横浜FMの決意は、Jリーグの処分とともに適切だと思う。
一方浦和は、観客・サポーターの自由な活動を制限したままだ。個々の選手の名前やメッセージを書いた「横断幕」の掲出、サポーターのグループでつくった応援旗などを禁止し、ファンやサポーターが選手やチームへの応援の気持ちを表現する手段はクラブの公式応援旗と自分の声に限られている。
「もしもういちど起きたら、大変なことになる」という思いが、浦和にはある。
繰り返されれば「無観客試合」以上の制裁を課される恐れがある。15点までの勝ち点没収、J2への降格、そしてJリーグからの除名などだ。「クラブが消滅する」という恐れが、「規制解除」をためらわせている。
だがそれは、「クラブはサポーターを信じていない」というネガティブなメッセージと受け取られかねない。若者を中心とした地域の人々と手を携えて歩んでいくしか生きる道のないプロのサッカークラブにとって、そのほうが大きなリスクではないか。
村井チェアマンは、冒頭の言葉を次のようにしめくくっている。
「サポーターとクラブの信頼関係の上に、自由で開放的で楽しい空気にあふれたスタジアムをつくろうという方向に向かっていってほしいと思います」
(2014年9月3日)
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