サッカーの話をしよう

No.995 ポジショニングの意識はあるか

 「ポジション取りが鍛えられていて、どこよりも早い」
 ことしのワールドカップで優勝したドイツ。その戦術的な長所を、データ分析の専門家である庄司悟さんはこのように表現する。味方がボールをもったとき、ドイツの選手たちは5人、ときは6人が、ボールをもった選手を囲むように10~15メートルの距離でポジションを取る。そのポジション取りの早さが相手を圧倒する原動力になったと言う。
 男子の21歳以下代表、女子のなでしこジャパンが出場しているアジア大会仁川大会。試合を追いながら、現在の日本選手たちにはポジションを取る意識が希薄なのではないかという疑問を感じた。
 サッカーにはさまざまな考え方があるが、現在の世界の主流のひとつが「個の力」で相手を圧倒しようというものだ。そうした考え方ではポジションは流動的ではなく、近づくより逆に離れるほうが味方を助ける場合さえある。
 その対極に、集団的なプレーで相手を打ち破ろうという考え方がある。コンビネーションで守備を破り、得点を狙うサッカーだ。ボールなしの動きでスペースをつくり、それを使って素早いパス交換で突破を図る。必然的に、選手間の位置関係、すなわちポジショニングが重要になる。
 フィジカル面で世界をしのぐとは言えない日本。当然、集団的なサッカーを志向することになる。選手たちはよく「距離感」という言葉を口にするが、ポジショニングの要素は「距離」だけではない。角度、そしてポジションにはいるタイミングなどの要素が揃わなければ、「正しいポジショニング」とは言えない。
 だが男子U―21日本代表やなでしこジャパンのアジア大会でのプレーぶりを見ると、目指すコンビネーションのイメージはあるのだろうが、そのために「正しいポジショニングをしよう」という意識はあまり感じられないのだ。
 リズムが良く、パスが回る時間帯には的確にポジション取りがされている。それができないときに試合は苦しくなる。パスが長くなり、無理な角度になり、タイミングがずれる。なんとかしようとそれぞれに奮闘するが、「より早くより良いポジションを」という肝心な努力はあまり見られない。全員がその方向性で努力することがリズムを取り戻す有効な道なのだが...。
 世界で最もフィジカルが強いドイツが、どこよりも早くポジション取りができれば、鬼に金棒、ワールドカップ優勝は必然だ。フィジカルで弱い日本のサッカーに「ポジショニングの意識」が希薄だとすれば、致命的な欠陥なのではないだろうか。

(2014年10月1日) 
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1993年から東京新聞夕刊で週1回掲載しているサッカーコラムです。試合や選手のことだけではなく、サッカーというものを取り巻く社会や文化など、あらゆる事柄を題材に取り上げています。このサイトでは連載第1回から全ての記事をアーカイブ化して公開しています。最新の記事は水曜日の東京新聞夕刊をご覧ください。

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