サッカーの話をしよう
No.997 海賊プレミアの新たな収奪計画
「プレミア」が牙をむき始めた。
世界のスターを集めるイングランドのプレミアリーグ。放映権収入だけで年間1兆円にもなる「金満リーグ」で、公式戦の1節を海外で開催するアイデアが表面化した。
プレミアリーグは20クラブで年間全38節を行う。6年前には「第39節目」を海外で開催する提案がなされたが、世界中から批判の嵐を浴びてわずか数週間で頓挫した。今回は38節のうちの1節を海外で行うというもの。正式な提案が出たわけではないが、「実現は避けられない状況」と、複数のリーグ関係者が話す。
ターゲットは主としてアジアと北米だ。アジアでは2003年から2年ごとの夏にプレミアの3クラブが出場する「アジアトロフィー」が開催され、タイや中国などで成功を収めている。アメリカではことしシカゴでマンチェスター・ユナイテッドとレアル・マドリード(スペイン)が対戦し、10万人の観客を集めた。
プレミアリーグはテレビから年間55億ポンド(約9553億円)という収入を得ているが、その半額に近い24億ポンド(約4169億円)が海外からの放映権収入だ。スペイン、ドイツ、イタリアなど他リーグも追随し、欧州サッカー連盟(UEFA)の主要大会を含めると毎年とてつもない巨額が欧州のサッカー界に流れ込んでいることになる。
より迫力のある、レベルの高いサッカーを見たいというファンの思いは当然だ。しかしそれに影響を受けて世界各国のプロリーグの人気が低迷し、存立の危機に瀕するとあれば、看過はできない。
差別という大問題がある。暴力も根絶されてはいない。しかし欧州による世界的なサッカー市場の独占こそ、現代サッカーの最大の問題だ。
欧州が世界中から一方的に「収奪」している資金がそれぞれの国に還流される仕組みを考えなければ、世界中でプロサッカーが健全に運営できなくなり、世界のサッカーの先細りは必至だ。公式戦の海外開催で新しい収入を生もうというのは、「収奪」を超えて「海賊行為」に等しい。
今回の「アイデア」はプレミアのクラブオーナーの会合で話題に上った。イングランド国内でも反対の声が上がっている。しかしそれは主として各クラブのサポーターがホームゲームを見る機会を減らされるからという理由。「収奪される側」の立場を理解してのものではない。
2017年からの次の放映権契約締結に向けて十分早い時期に結論を出さなければならないと、関係者は話す。「海賊」を撃退するのに残された時間は、そう長くはない。
(2014年10月15日)
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