サッカーの話をしよう

No.1000 アドバンテージが生んだ美しいゴール

 Jリーグの9月の「月間ベストゴール」に、浦和の柏木陽介が第24節(9月20日)に記録した得点が選ばれた。
 当然だと思う。月間どころか、「年間ベストゴール」に選んでもいい得点だ。ただしそう思うわけは、今回の選考理由とはずいぶん違う。
 埼玉スタジアムに柏を迎えた一戦。この得点は、DF那須が先制点を決めた7分後の前半28分に生まれた。
 ちょうどハーフライン上、左タッチライン近くで後方からボールを受けた浦和DF槙野が右足ワンタッチで柏ゴールに向かって大きくけった。その直後、柏FWドゥドゥが激しくタックル。槙野が吹っ飛ぶ。非常にラフで危険な反則だ。だが笛は吹かれない。
 高く上がったボールが柏ペナルティーエリア手前に落ちる。胸でコントロールした浦和FW興梠からFW李に。左に一歩もった李がヒールで右に流す。走り込んできたのが柏木だ。右足で持ち出し、当たりにくる柏のDF2人を右足切り返しで一気にかわして左足シュート。ボールはゴール右隅に吸い込まれた。
 「挟み込まれそうになりながらも相手選手をかわし、空いたスペースを作り左足で決める一瞬の判断力は見事」(選考委員会の説明=Jリーグの公式サイトから)
 この試合を担当していたのは佐藤隆治主審(37歳)である。彼はドゥドゥの反則を確認していた。だがボールが上がった瞬間に振り向いてゴール前を見ると、両手を前に出すジェスチャーを見せた。「アドバンテージ」をとったのだ。
 「反則をされたチームがアドバンテージによって利益を受けそうなときは、プレーを続けさせる」と、ルールの第5条に明記されている。しかしこれがなかなか難しい。
 「反則を見逃さないぞ」という意識が、審判たちからどうしても抜けないからだ。反則を見ると反射的に笛を吹いてしまう。だが重要なのは、反則があったかどうかではなく、その結果攻撃側が利益を失ったかどうかなのだ。
 槙野のキックは非常に大ざっぱだったうえに、飛んだ先には柏の黄色いユニホームが密集していた。そこから直接チャンスが生まれるようには見えなかった。笛が吹かれ、イエローカードが出され、FKで再開という形で、まったくおかしくなかった。だが何かを感じたのだろう、佐藤主審は待った。その結果、世にも美しいゴールが生まれた。
 得点の直後、浦和のペトロヴィッチ監督は、振り向いて「主審がよく見たな」と杉浦コーチにささやいたという。
 浦和の2点目を審判カードに記入した後、佐藤主審はゆっくりとドゥドゥに近より、イエローカードを示した。

(2014年11月5日) 
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