サッカーの話をしよう
No.1001 ジブラルタル 夢の試合
まさに「夢の試合」だ。
国際サッカー連盟(FIFA)に加盟さえ認められていない「小国」が世界チャンピオンと公式戦で対戦する―。
11月14日(金)、2016年の欧州選手権出場をかけた予選D組で、ジブラルタルがドイツに挑む。会場はドイツのニュルンベルク。ワールドカップで優勝を飾りFIFAランキング1位のドイツに、「ランク外」のジブラルタルがぶつかる。もちろん初対戦だ。
ジブラルタルについては2007年にも書いた。欧州サッカー連盟(UEFA)への加盟申請が拒否されたという話だった。イベリア半島南端近くの半島に位置する面積6.5平方キロ、人口3万弱の英国領。英海軍の基地を中心とした地域だ。サッカー協会設立は1895年と古い。そのジブラルタルの15年来の夢が、昨年5月についに実現した。ロンドンで行われたUEFA総会で加盟が認められたのだ。そして臨む最初の公式大会が、欧州選手権予選だった。
9月7日、待ちに待った公式戦デビューの日がきた。だがホームゲームの試合会場は250キロも離れたポルトガル南部のファロ。ジブラルタルにはUEFAの公式戦開催基準に適合したスタジアムがなく、関係の悪い隣国スペインでの開催は不可能だった。
予選突破有力国のポーランドを相手にジブラルタルは前半こそ0-1と粘りを見せたが、後半は次々と失点、0-7で敗れた。続くアイルランド戦も0-7。グルジアとは0-3だった。3戦3敗、失点17、得点0。予想されていたこととはいえ厳しい結果だ。そして今週迎える4戦目の相手が、世界チャンピオンなのだ。だがジブラルタル・チームの意気は衰えない。
「3試合の経験で選手たちは急速な成長を見せている。グルジア戦ではシュートを7本も打ち、もう少しで得点できるところだった。世界チャンピオンを相手にしても良い試合ができるはず。とても楽しみだ」(ブラ監督)
スペイン2部でのプロ経験をもち、フットサル代表でもあるDFのR・チポリナは、「経験したことのないレベルで、毎試合学ぶことが多い。私は31歳だが、もし10年前にこんな経験ができていたら、ずっと良い選手になることができただろう」と語り、次の世代は必ず強くなると期待をふくらませる。
UEFA基準の競技場建設計画も進んでいる。半島最南端の「ヨーロッパポイント」にある土のクリケット場を建設地にあて、2016年の完成予定だ。反対意見もあるが、「夢の試合」で奮戦すれば「夢の新スタジアム」実現への大きな推進力になると、選手たちは張り切っている。
(2014年11月12日)
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