サッカーの話をしよう
No.1003 浦和、最後の2試合へ
「何と言っていいか、わからない状態...」
目もうつろなMF柏木陽介の言葉が、試合後の浦和の監督や選手たちのいつわらざる心境だったに違いない。
11月22日を2位G大阪に勝ち点5差で迎えた浦和は、そのG大阪に勝てば優勝決定という状況にあった。ナビスコ杯決勝や日本代表日程による3週間の準備期間を経てピッチに立った浦和は、全身全霊のプレーで攻勢に立った。
引き分けでも優勝を濃厚にできた。だが0-0で迎えた後半43分、相手陣で得たFKから決勝点を奪おうとした。守りきることなど、誰も考えていなかった。ところがそのFKをはね返されてカウンターアタックを受け、決定的な失点。ロスタイムにも1点を追加され0-2の敗戦となった。呆然とするのは当然だ。
依然として首位だが、勝ち点2差で残り2戦。G大阪が連勝するなら、浦和も連勝が優勝の絶対条件だ。圧倒的な優位が崩れ、逆に浦和が追い詰められる形となった。昨年までの浦和は、こうした状況にめっぽう弱かった。
しかし試合後の光景は「これまでとは違う」と感じさせた。ゴール裏のサポーターはひとりも席を立たなかった。そして「勝てなくて申し訳ない」と言うように頭を下げる選手たちに、大きな拍手とともに大声援を送ったのだ。
拍手は徹頭徹尾攻撃的に戦ったこの試合への高い評価。大声援は残り2試合もいっしょに戦うという決意表明―。
Jリーグ史上、今季の浦和サポーターほど不自由な思いを感じ続けた存在はなかっただろう。3月に起こった差別的内容の横断幕掲出事件。Jリーグは無観客試合というかつてない厳罰を課したが、クラブ自体も再発防止のため横断幕や自作応援旗の使用を禁止した。サポーターグループもすべて自主的に解散した。
一時は観客数が落ちた。しかし次第に盛り返し、この試合では5万6758人。選手たちは、この状況下でも懸命に励まし続けてくれたサポーターのために何としても優勝したいと思っていたはずだ。G大阪戦はその思いを一挙にかなえる絶好機だった。だがその望みはかなわなかった。呆然とするのは当然だ。
こうしたときに大きな力を与えるのが本物のサポーターというものだ。そして浦和には、その存在がいた。拍手と声援を受け、ショックは闘志に変わったに違いない。
残り2試合は、29日(土)の鳥栖戦(アウェー)と12月6日(土)の名古屋戦(ホーム)。どちらも簡単に勝てる相手ではない。しかし私は、いつまでも忘れられない、闘志と魂のこもった2試合になるのではと感じ始めている。
(2014年11月26日)
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