サッカーの話をしよう
No.1009 監督と審判は仲間
「ロスタイムは、なぜ前半より後半が長いんですか?」
G大阪の長谷川健太監督から、まるで少年のような質問が出た。よほど腹にすえかねた経験があるのだろう。聞かれた西村雄一審判員は、思わず苦笑いをした。
1月10日から東京で行われた「フットボール・カンファレンス」。2年にいちど開催され、今回で9回目を迎えた日本サッカー協会公認コーチの研修会だ。今回の参加者は1070人。海外からもたくさんの講師やゲストを迎え、密度の高い3日間だった。
そのセッションの一つが、ワールドカップ主審の西村さんを迎えての「技術と審判の協調」というテーマだった。今季J1に昇格する松本山雅の反町康治監督が長谷川監督とともに登壇して話した。
ここ数年Jリーグが取り組んでいるのがよりタフなゲームの実現だ。ファウルぎみの当たりを受けるといとも簡単に倒れ、FKを要求する選手があまりに多い。試合がぶつ切れになり、サッカーの魅力・スピード感を奪っている。
さらに、こんなことを続けていれば日本の選手はひ弱になり、いつまでたっても世界で勝てない。ファウルされてもプレーを続けようというたくましい選手をつくるためには、審判にもそれを理解してもらい、その方向性で笛を吹いてもらう必要がある。
「世界の選手は笛を期待していない」と、西村主審はワールドカップとJリーグの違いを語る。「倒れても起きてシュートを決めれば家族を養えるという迫力があります」
J2をわずか3年で突破した松本を率いる反町監督は、日常の練習からファウルがあっても止めないようにしてきたという。その結果、倒れてもすぐに立ってプレーを続けるようになった。昨季のJ2全42試合で、松本の選手が担架で運び出されたのは、アキレスけんを切断した選手ひとりだけだったという。
監督と審判員はときに敵対する関係のように見える。だがざっくばらんな話から、監督も審判員も「より良いJリーグ、より強い日本のサッカーをつくる」という面で「仲間」であることがよく理解できた。1月末には、初めての審判員の「カンファレンス」が大阪で開催される。こんどはここにJリーグの監督が行って、また忌憚(きたん)のない話し合いができればと思った。
「選手交代のほとんどが後半にあるからです」
長谷川監督の質問に、西村主審はやさしく答えた。
「ひとりで約30秒、両チームで計6人の交代があると、それだけでロスタイムは3分間になるでしょう?」
長谷川監督は、少年のような表情でうなずいた。
(2015年1月14日)
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