サッカーの話をしよう
【号外】アギーレ契約解除 私の見方
昨年末からのアギーレ問題のカギは「契約」にあった。
日本サッカー協会側から一方的にアギーレ監督との契約を解除できるのは、代表監督の業務遂行に支障が生じるとき、すなわち「起訴」の段階のはずだった。その前に強行すれば、逆に契約をタテにアギーレ監督から告訴され、日本協会側が大きなダメージを受ける恐れがあった。
だが「起訴」ではなく「告訴受理」の段階でアギーレ側が契約解除に応じた。そこにはそのための条件の交渉があり、合意に至るというプロセスがあったはずだ。
アギーレ監督の立場に立てば、守らなければならないのは彼が連れてきた3人のコーチ陣。彼らに対する日本サッカー協会からの手当てが満足いくものと判断したから、アギーレ監督は同意したのだ。
メディアは単純に「解任」という言葉を使っているが、「契約」があり、それを双方の合意によって「解除」したという筋道を見失うと、この出来事の本質が見えない。
「裁判になっても、絶対に有罪にはならない」という確信がアギーレ監督にはあるのだろう。アジアカップ大会中に何人もの欧州記者と話したが、異口同音に「裁判を起こすこと自体が目的で、有罪にできるとは思っていない」と話した。「八百長撲滅に真剣に取り組んでいる」ということをアピールするスペインリーグのテバス会長のいわばスタンドプレーだという。
その見方はともかく、起訴が確実ならその時点でアギーレ監督はすべてを失う恐れがある。コーチたち守ることもできなくなる。アギーレ監督としてもぎりぎりの時点での譲歩だったに違いない。
合意のためにいくら必要だったかは不明だ。日本協会の大仁会長は「守秘義務があるので話せない」としたが、法外な額ではなかっただろう。外からは対応が遅いように見えたものの、総合的に考えれば、日本協会は問題をうまく処理できたのではないか。
(2015年2月4日)
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