サッカーの話をしよう
No.1014 「4人目の交代」実現へ
「もう1年早かったら...」
1月に開催されたAFCアジアカップの準々決勝。日本代表DF長友に異変が起こったのは、延長戦が始まって間もなくのことだった。MF長谷部のパスを追って突破しようとしたプレーで右の太もも裏を痛めてしまったのだ。
しかし日本は後半20分までに交代枠の3人を使い切っており、もう交代はできない。延長の後半、アギーレ監督は攻撃を主体としたMFに長友を移し、本来はMFの柴崎をDFにして残りの15分間を戦わざるをえなかった。長友は全力疾走ができず、ときおりボールに触れただけだった。
さて、ことしのルール改正で、このようなケースが救われる可能性が出てきた。
サッカーのルール改正を決める唯一の機関である国際サッカー評議会(IFAB)。その年次総会が今週土曜(2月28日)に英国・北アイルランドのベルファスト近郊クレイガバッドのホテルで開催され、延長戦に限って4人目の交代を認めるというルール改正案がはかられることになっている。提案者はIFABのメンバーのひとつである国際サッカー連盟(FIFA)だ。
ワールドカップやアジアカップの「ノックアウトステージ」など、90分間が終わって同点の場合に延長戦になる試合では、監督たちは3人目の交代を送り出すのをためらう傾向がある。何らかのアクシデントがあったとき、長時間を10人で戦わなければならなくなる恐れがあるからだ。しかし延長戦になった場合にはもうひとり交代できるとなれば、思い切った手を打つことができる。わずか数パーセントかもしれないが、延長戦も減るのではないか。
この改正案は2012年の年次総会でもFIFAが医事委員会などの意見を受けて提案し、否決された経緯がある。しかし昨年のワールドカップで交代選手の得点が多かったことから、大会の技術分析に当たったメンバーをはじめFIFA内部で再検討の動きが生まれたらしい。ドイツ代表のレーウ監督ら多くの専門家からも「選手の安全を守る改正案」と支持を受け、今回は可決される可能性が高い。
ちなみにこの「延長戦での4人目の交代」、2001年から2シーズン、Jリーグで実施されていた。当時のJリーグは「延長Vゴール」制。前年に鹿島の監督に就任したトニーニョセレーゾ氏の提言を受けての採用だった。
このルール改正が昨年行われていたら、アジアカップの準々決勝で、アギーレ監督は迷うことなく長友に代えてDF太田を送り込んだだろう。そして日本は、延長戦のうちにUAEから決勝点を奪うことができたかもしれない...。
故障した長友を代えることができず、日本はPK戦で敗退(写真提供:AFC)
(2015年2月25日)
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