サッカーの話をしよう

No.1021 試合後のパフォーマンスは嫌いだ

 きょうの記事にはきっとたくさんの「反対意見」があるだろうと覚悟している。Jリーグの試合後に行われている選手たちからのファン・サポーターへのあいさつ。私はこれが好きではない―。
 Jリーグの試合後、選手たちは必ずチームそろってサポーター席のところにあいさつに行く。それだけならまだしも、チームによってはその後さまざまなパフォーマンスをする。サポーターから渡されたハンドマイクで選手がひと言話すクラブもある。ホームチームなら、全員でスタジアムを一周するクラブもある。
 入場料を払ったうえに力の限りの声援を送り、90分間歌い続けて選手の後押しをしてくれるサポーターたちに、選手たちが心から感謝しているのは間違いない。本来の意味で「有り難い」存在と感じているだろう。しかし感謝の思いは、こうした行為でしか表せないものなのだろうか。
 私が好きなのは、昔からイングランドのリーグで行われてきたスタイルだ。
 主審の長い笛が鳴り、試合が終了する。その瞬間、それまで死闘を繰り広げていた両チームの選手たちが何もなかったかのように近くの相手選手と握手し、すたすたと更衣室に引き揚げていく...。途中で両手を上げて拍手したりすることはあるかもしれない。だがそれだけだ。
 1960年代の末にイングランドのサッカーを紹介するテレビ番組が始まった。もちろん見事なテクニックやスピード感にも目を奪われたが、当時高校生だった私には、なぜか試合終了後のこの短い時間がとても新鮮で「かっこいい」ものに映った。
 自分にできることは90分間のプレーのなかに出し尽くした。「ノーサイド」の笛が鳴ったときには力など残っていない。ピッチ上にいるのは力いっぱい戦った仲間だけ。どちらが勝ったのか、試合結果さえもうない―。選手たちのダンディズム、プロとしての強烈な誇りを、私はそこに感じたのだ。そうした選手たちをただ拍手で送る観客にも、成熟を見る思いがした。
 現在のJリーグで試合後に選手たちが冗長なパフォーマンスをしているのを見ると、選手たちへのリスペクトのなさと、選手たち自身のプライドのなさが感じられてならない。個人的な好みの問題かもしれないが...。
 出場時間のなかで自分のもつすべてを出し尽くすのがプロだ。「すべて」とは、文字どおり、技術・頭脳・体力・情熱のすべてだ。その超人的な集中力こそが「プロ」と呼ばれるゆえんだ。プロが試合後に余力を残しているのは恥ではないか。またそれを求めるのも違うのではないか。それが私の正直な感想だ。

(2015年4月15日) 
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1993年から東京新聞夕刊で週1回掲載しているサッカーコラムです。試合や選手のことだけではなく、サッカーというものを取り巻く社会や文化など、あらゆる事柄を題材に取り上げています。このサイトでは連載第1回から全ての記事をアーカイブ化して公開しています。最新の記事は水曜日の東京新聞夕刊をご覧ください。

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