サッカーの話をしよう
No.1025 テクニカルエリアでは責任ある態度で
「テクニカルエリア」はサッカー場で最も新しく引かれたラインである。Jリーグと同じ1993年に誕生した。といっても「ピッチ外」のエリアではあるが...。
ペナルティーエリアが描かれてサッカー場がほぼ今日の形になったのが1902年。35年後の1937年にペナルティーキックのときにキッカーとGK以外の選手が離れていなければならない距離を示す「ペナルティーアーク」が付け加えられ、今日と同じラインが完成した。
それから56年後、1993年のルール改正でテクニカルエリアが設定され、ベンチを離れてピッチ近くまで出て指示を出していいことになった。
通常は白い破線で描かれるテクニカルエリア。大きさが決まっているわけではなく、ベンチの左右1メートル外、そしてタッチラインから1メートル離して設定される。監督を含むチーム役員のうち1人が、このエリア内であればベンチを離れて指示を出すことができる。
このルールができたころには、指示を出したらすぐにベンチに戻らなければならなかった。だが2009年のルール改正でずっと留まっていることができるようになった。Jリーグは監督だけでなく通訳も出ることを許されていたが、昨年から国際サッカー連盟の解釈どおり、1人だけとなった。通訳が選手に指示を伝えるために出るときには、監督はベンチに戻っていなければならない。
タッチラインから1メートルというのはとても近い。とくにピッチに向かって右側のタッチライン外は副審が走る。ライン際のプレーから離れようと副審がバックステップしたらテクニカルエリアの端に立っている監督と衝突しかねない。副審の安全を考えれば、テクニカルエリアはあと50センチはタッチラインから遠ざけるべきと、かねてから私は思っている。50センチ下げても、指示を出すのに影響はない。
ところで、「テクニカルエリア」とは本来ベンチを含む地域のこと。ルールにはとても重要な一項がある。「監督およびその他テクニカルエリアに入る者は、責任ある態度で行動しなければならない」という文言だ。
「タッチライン際のFK。キッカーがロングパスを送ろうと下がっていくとそこには相手の監督が立っていた。そして『自分のテクニカルエリアのどこにいようと自由だ』と言い、動こうとしない。主審はどう対処する?」
こんな質問が、以前紹介した英国の新聞記事にあった。
元レフェリーであるキース・ハケットの回答は厳しい。
「テクニカルエリアは監督の領土ではない。注意しても責任ある態度を取らないなら退席処分にすべきだ」
(2015年5月27日)
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