サッカーの話をしよう

No.1032 Jリーグの理想郷・松本

 「走りだせ~、マツモトヤマガ、つかみ取れ~、きょうの勝利を」
 人気ロックバンド「THE BOOM」のヒット曲『中央線』のメロディーに乗せた応援歌とともに両チームが入場する。緑のユニホームに身を包んだすべての老若男女が立ち上がり、手にしたタオルマフラーをぐるぐると振り回す。歌のテンポが上がり、興奮はピークに達する―。
 1965年に長野県松本市で誕生したクラブを2004年に法人化してJリーグ入りを目標に定めてからわずか10年間でJ1昇格を果たした松本山雅FC。J2昇格の2012年から指揮をとっている智将・反町康治監督の指導とともにこのクラブを支えているのは熱烈なサポーターだ。
 「あそこのサポーターは熱い。ものすごいプレッシャーを感じる」。ここでアウェーチームとしてプレーしたJリーグ選手たちが口々に語る。
 ホームのアルウィン(長野県松本平広域公園総合球技場)は収容2万人の美しい専用スタジアム。四方を囲む観客席がピッチに近く、試合が熱してくるとサポーターとピッチ上の選手たちが共鳴するようにパワーを増す。それがアウェーチームを追い詰める。
 J1「第2ステージ」開幕の7月11日、第1ステージ優勝の浦和を迎えた松本は、2点差をつけられた後半10分過ぎから攻勢に転じた。17分にDF酒井が1点を返すと、それからは猛攻に次ぐ猛攻だ。
 「得点の半分がセットプレーから」と言われる松本。MF岩上のCKとロングスローで浦和を防戦一方に追い込む。サポーターの声が緑のうねりのようにピッチに注ぎ込まれ、疲れ切っているはずの選手たちの足を動かす。結局1-2のまま逃げ切られたが、スタジアムを後にするサポーターの表情には落胆の色はなかった。全力を尽くした競技者のような、生き生きとした明るい顔ばかりだった。
 私が初めてアルウィンを訪れたのはスタジアム完成から2年後の2003年。前年のワールドカップのキャンプ地として建設され、パラグアイ代表の誘致にも成功した。しかし地元にはJリーグクラブはなく、その日は千葉×名古屋だった。当時「山雅サッカークラブ」は北信越リーグでプレーしていた。もちろんサポーターなどいなかった。
 翌年にスタートした「Jリーグへの夢」のなかで他クラブの選手たちを恐れさせるサポーターが生まれ、クラブは全市民が誇りとし愛する存在となった。温かな愛に支えられた選手たちの奮闘が、人口約24万人のホームタウンに新たな喜びをもたらした。
 松本山雅には、Jリーグの理想像のひとつがある。

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(2015年7月15日) 
クリエイティブ・コモンズ・ライセンス

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