サッカーの話をしよう

No.1036 中国サッカーの新時代

 中国の武漢で行われていた東アジアカップで、4チーム中、日本は女子が3位、男子は4位だった。他国のことを心配している場合ではない。しかし私は、中国のサッカーについて考えている。
 私が初めて中国代表を見たのは1975年。文化大革命の荒波を経て10年ぶりに国際舞台に立ったのが、香港でのアジアカップ予選だった。
 すばらしいチームだった。守備は山東省出身で大柄な主将・戚務生が引き締め、前線では広東省出身で細身の容志行がジョージ・ベストを思わせる華麗なドリブルテクニックで攻撃を切り開く。試合運びは成熟し、北と南の身体的特徴を生かした絶妙な組み合わせは、ブラジル代表の黒人と白人選手の長所のミックスのように思えた。10年後、いや5年後には、アジアの王者になるという印象だった。
 しかしその後、中国代表はポテンシャルを生かし切れなかった。ワールドカップ出場は日本と韓国が予選に出なかった2002年大会のみ。それもブラジルなどを相手に3連敗、得点0だった。そして今回の東アジア大会でも、フルメンバーで出場しながら優勝を逃した。
 中国で最も人気があるスポーツは、文句なくサッカーである。しかし先日までの世界水泳のようにいろいろな競技で世界を席巻する勢いを見せながら、サッカーだけはどうもうまくいかないのだ。
 近年は大富豪が保有する中国クラブの派手さが世界の耳目を引いている。中国スーパーリーグの平均年俸は勝利給抜きで1億円を超すと言われる。しかしがそれが選手たちから世界に出ていこうという意欲を奪っていると、ある中国人ジャーナリストは言う。
 そしてクラブの力が強くなりすぎ、中国サッカー協会もコントロールできない状態にある。リーグ期間中の東アジアカップには、協力を渋るチームも多かったという。勝利給が出ない代表でのプレーに消極的な選手も少なくない。
 こうした状況にしびれを切らしたのがサッカー好きで知られる習近平・国家主席だ。サッカーでも中国を世界一にすると、競技人口を増やすために小中高の学校でプレー環境を整えようとしている。
 武漢滞在中、興味深いテレビ番組を見た。地方のある小学校に真新しいボールやシューズなどが届けられ、きれいな人工芝の張られた校庭で少年少女が楽しそうにボールをけっているのだ。宣伝臭さぷんぷんの映像だったが、底辺拡大への着目は、選手育成システムにばかり注目していた数年前からは変化を感じる。
 政治的な後押しでサッカーが強くなるかどうか―。中国サッカーから目を離せない時代がきたのは確かだ。

(2015年8月12日) 
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1993年から東京新聞夕刊で週1回掲載しているサッカーコラムです。試合や選手のことだけではなく、サッカーというものを取り巻く社会や文化など、あらゆる事柄を題材に取り上げています。このサイトでは連載第1回から全ての記事をアーカイブ化して公開しています。最新の記事は水曜日の東京新聞夕刊をご覧ください。

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