サッカーの話をしよう

No.1037 驚くべき岡崎慎司

 イングランドのレスターで躍動する岡崎慎司を見て脳裏に浮かんだのは、1990年代の名古屋グランパスのエース森山泰行だった。
 森山は両手も地面につけて走る「四足走り」をトレーニングに採り入れ、ボールに対する瞬発力を養成した。彼の得点の3分の1は体を投げ出すダイビングヘッドだった印象がある。ダイビングヘッドは、岡崎の看板でもある。
 岡崎のプレミアリーグ初ゴールは8月15日のウェストハム戦。左からのクロスに合わせた走り込みざまのジャンプボレーは相手GKにはじかれたが、素早く体勢を立て直し、バレーダンサーのように跳躍してヘディングで叩き込んだ。ゴールへの執念と、何よりも卓越したボディーコントロールを感じさせる、まさに「岡崎印」の得点だった。
 ドイツのマインツから移籍してきた小柄(174センチ)な日本人ストライカーは、信じ難いほどの運動量と相手からボールを奪う能力を見せている。開幕から2試合、最前線で相手を猛烈に追い回し、ついにはボールを奪ってしまうプレーが何回も見られた。
 190センチクラスのDFに激しく詰め寄り、強引に体をねじ入れるといつの間にかボールを自分のものとしている。その動きは、人間というよりどう猛な動物を思わせる。岡崎はこうしたプレーを繰り返してチームを助け、仲間に驚嘆の声を上げさせ、ラニエリ監督に深い満足を与える。
 その上、ボールをもてば高い精度のパスを送り、ゴールも決めてくれるのだから、こんなに頼りになる選手はいない。「移籍金700万ポンド(約14億円)は安かった」と地元メディアが書くのも当然だ。
 そして私たちが驚くのは、29歳というサッカー選手としてはけっして若くはない年齢を迎えても、岡崎が年々スピードを増し、動きがしなやかになっていることだ。
 「ストライカーの鬼門」とまで言われるイングランドのプレミアリーグに移ってドイツ時代よりさらにアグレッシブになり、たちまち不可欠な存在となったのは、自らの肉体の機能を高める工夫と努力のたまものに違いない。
 岡崎が森山を意識しているのか、また「四足走り」を採り入れているのか、私は知らない。しかし森山が現在の岡崎を見たら、彼が現役時代にひとりで工夫しながら目指していた姿が岡崎のなかにあると感じるのではないか。
 自らを酷使して相手を追い込み、味方ボールになると全速力で相手ゴールに向かっていく岡崎。徹頭徹尾チームのために戦う姿は、レスターのファンだけでなく、遠くない将来にイングランド中の人びとの心をつかむに違いない。

(2015年8月19日) 
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