サッカーの話をしよう
No.1038 35周年、100人の笑顔
百人の笑顔が広がった。幸福感が百倍になった。
監督という立場で私が参加している東京の女子サッカークラブ「FC PAF」が、先日、創立35周年を記念するイベントを開催した。
午前中のサッカー、会場を移して午後のパーティーと長い時間だったが、笑いが絶えずとても楽しい一日だった。
創立は1980年。実践女子大の卒業生によってつくられた。75年にサッカー同好会が誕生した実践女子大は東京の強豪のひとつで、卒業生でチームができるほどになった80年には、女子チームの立ち上げを計画していた読売サッカークラブ(現在の東京ヴェルディ)から「そろってうちに来ないか」と誘われた。
メンバーは鎌倉で「合宿」をして徹夜で話し合い、自分たちで新しいクラブをつくることを決めた。それが「FC PAF」だった。ちなみに読売クラブはその後1年間かけて選手を集め、翌年「ベレーザ」を設立した。
「自分たちがサッカーをするクラブを、自分たちで運営していく」
いまは実践女子大の卒業生に限らずサッカーをプレーしたい女性に経験の有無を問わず門戸を開いているが、創立時の志は、変わらずクラブの重要なバックボーンだ。
先日のイベントも、すべて現役選手たちだけで計画し、仕事を分担して準備し、やり遂げた。最後の記念撮影時の参加者百人の笑顔は、その仕事がいかに立派だったかの証しだ。ピッチ上だけの監督である私は、当日みんなの仕事ぶりに感心するだけだった。
「自分たちで」は、資金面も同じだ。クラブはすべて選手が負担する会費だけで運営されている。過去にも現在もスポンサーはいない。
しかしそれでも自分たちの力だけですべてができるわけではない。家族や職場の理解と協力と応援、OG選手たちの支援、そしてピッチ上ではライバルとなる他の女子チームや、協会役員の人びと...。
サッカーを楽しめるのは、そして結婚し子どもができてもサッカーを続けていられるのは、ありとあらゆる人の支えがあってこそのものだ。記念イベントは、選手たちがその感謝の念を自ら再確認し、その気持ちを日ごろ支えてくれている人びとに伝えるためのものでもあった。
OGたちは日本全国からやってきた。創立時からの「応援団」のひとりは、赴任先のフィリピンから駆けつけた。
「スポンサーはいない。でもサポーターはいます」。ある選手の夫がそう話した。
そう、私たちの回りにはこんなに応援し、支えてくれている人がいる。私たちは感謝の気持ちを忘れず、力を尽くさなければならない。
(2015年8月26日)
1993年から東京新聞夕刊で週1回掲載しているサッカーコラムです。試合や選手のことだけではなく、サッカーというものを取り巻く社会や文化など、あらゆる事柄を題材に取り上げています。このサイトでは連載第1回から全ての記事をアーカイブ化して公開しています。最新の記事は水曜日の東京新聞夕刊をご覧ください。