サッカーの話をしよう
No.1039 成長が勢いを生む
「勢い」という言葉でスポーツを語るのを、私はあまり好まない。
勝利のために必要なのは、しっかりとした準備を背景にした「地力」であり、それを発揮するための規律であり、そして粘り強い精神であると信じているからだ。「勢い」も力になるが、それだけで勝ち抜くことはできない。
だがしかし、あまりに「勢い」がないのも困る。バヒド・ハリルホジッチ監督が率いる現在の日本代表だ。
明日9月3日のカンボジア戦(埼玉スタジアム)を皮切りに、日本代表は「秋の陣」に突入する。11月まで毎月2試合、3カ月間で計6試合。そのうち5つはワールドカップのアジア第2次予選という重要な試合だ。
ところが6月にシンガポールと引き分けて以来、8月の東アジアカップでは1分け2敗と、日本代表は4試合も勝利がない。就任時に「ことしは全勝だ」と強気だったハリルホジッチ監督も、このところ愚痴や言い訳ばかりだ。
原因は代表選手たちの「勢い」のなさにある。
4年半前、ザッケローニ監督の下でアジアカップを制したころには伸び盛りの選手が何人もいた。本田圭佑も香川真司も長友佑都も20代前半。成長途上で、欧州で名が知られ始めたころだった。岡崎慎司はドイツに渡ったばかり。猛烈な勢いで「無名選手」から成り上がろうとしていた時期だ。そんな存在がいまの日本代表に何人いるだろうか。
チームの「勢い」とは、成長を見せているときだ。そしてチームの成長とは、個々の選手の成長にほかならない。成長中の選手が何人もいれば相乗効果が生まれ、個々の成長も加速する。自然に、チームにも「勢い」が出る。
ところが2013年の半ばを過ぎると伸び盛りだった選手たちが成熟期を迎え、それぞれ欧州のビッグクラブで活躍して経験は増えたものの、伸び率は鈍化した。ザッケローニは果敢に若手を注入したが、彼らは本田や香川のようには伸びてくれなかった。その状況がいまも続いているのだ。
ことし3月、「緊急事態」にハリルホジッチが就任してチームは一時的に活性化したものの、6月以来、以前にも増して「勢い」のない状態になってしまった。2次予選と言っても心配な状況だ。
この状況を打破するには、若手が物おじせずに挑戦し、自らチームを牽引する気概を示す必要がある。そして同時に、これまで日本代表の中心となって活躍してきたベテランたちも、自らを鼓舞し、もういちど成長への意欲をかきたてなければならない。
明日からの「秋の陣」で、選手たちの「成長する力」を見たい。
(2015年9月2日)
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