サッカーの話をしよう
No.1043 ホームで試合ができないシリア
明日(10月8日)、日本代表は2018年ワールドカップのアジア第2次予選E組の第4戦、シリア戦を迎える。これまで3戦全勝、この組で最も手ごわい相手だ。
会場はオマーンのマスカット。国立競技場にあたる3万4000人収容の「スルタン・カブース」で同じ日にD組のオマーン×イランがあるため、シリア×日本は1万2000人収容の「シープ・スタジアム」で開催される。
シリア北部のアレッポには5万3200人収容の美しい競技場(2007年完成)があるのに、なぜ2500キロも離れたマスカットで試合をするのかは、言うまでもない。「アラブの春」に端を発する内戦が2011年から続き、ロシアやアメリカの関与とともに大量の難民もからんでいまや世界的な問題となっているシリア。国際試合など行える状況ではないのだ。
正式名称「シリア・アラブ共和国」。2012年の資料では人口2240万だが、内戦と過激派組織ISの進出によって家を失った「国内難民」が760万人、それ以外に、国外に逃れた人が400万人を超えているという。
ワールドカップ予選のホームゲームを国外で行う―。とても考えられないことだが、現在39カ国で行われているアジア第2次予選ではそう珍しいことではない。日本やシリアと同じE組のアフガニスタン(隣国イランで開催)、F組のイラク(隣国イランで開催)、G組のミャンマー(隣国タイで開催)、そしてH組のイエメン(カタールで開催)と、実に5カ国が自国内で開催できない状況にある。
中東の4カ国は治安悪化が原因だが、ミャンマーは国際サッカー連盟(FIFA)の制裁によるもの。2014年大会予選のオマーン戦で観客がペットボトルや石を投げ込んで没収試合になったためだ。FIFAは当初ミャンマーに「1大会出場停止」を言い渡したが、後にホームでの開催だけを取り上げた。
オマーンは「右向きのブーツ」の形をしたアラビア半島の「つま先」あたりの国。首都マスカットは10月の一日の最高気温が平均で34度。まだ非常に暑い。すでに現地に到着しているメディアは「39度の猛暑」と伝えている。試合は午後5時(日本時間午後10時)キックオフ。しかし日本が警戒しなければならないのはその暑さだけではない。
シリア代表選手の何人かは首都ダマスカスのアルワハダ・クラブ所属だが、大半はイラクなど周辺国のクラブでプレーしている。そうした立場でシリア代表の赤いユニホームを身に着けるとき、選手たちの胸にどんな決意が湧くのかを想像するのは、そう難しいことではない。
(2015年10月7日)
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