サッカーの話をしよう
No.1045 ピッチに対するたくましさを
アウェー2試合を戦った10月の日本代表は、シリア、イランと対戦して1勝1分け。結果は悪くなかったが気になったことがあった。両試合とも、前半は苦戦し、後半になってようやく本来の力が出るという形だったことだ。
戦術面や相手の動きの影響もあるだろう。しかし見逃せない要素がピッチへの適応に時間がかかることだった。
オマーンのマスカットで行われたシリア戦では、午後5時のキックオフ後、日没とともに急激に湿度が上がり、芝に細かな結露がついてボールにからみついた。コントロールミスやパスミスが多かった原因は、このピッチに合わせられなかったことだ。
テヘランで行われたイラン戦では、芝生の深さに苦しんだ。香川や本田のパスがカットされたり、武藤がドリブルでボールを置き去りにしてしまったのはそのためだ。
日本代表選手の日常のプレー舞台はJリーグやブンデスリーガなど。スタジアムだけでなく練習場も良質の芝生が用意されている。それも、ワンタッチパスを多用する素早い展開のサッカーができるよう、短く刈り込んである。
しかしそうした芝生に慣れきってしまうと、別のコンディションでのプレーがとても難しくなる。良いピッチではボールは予想どおりの動きをするからボールから目を離して状況判断に集中することができるが、悪いピッチで同じようにすると思いがけないミスになってしまうのだ。
国立競技場に「夏芝」しか敷かれていなかった1980年代のトヨタカップで欧州勢が苦労したのは、枯れた芝という経験のないピッチ状態に適応しきれなかったためだった。
さて、日本代表の次の活動は11月のシンガポール戦とカンボジア戦。再びアウェー連戦だ。そして今度は、「人工芝」という、中東での試合とは別のピッチが待ち構える。
シンガポールの国立競技場では昨年ブラジルと対戦したことがある。最新の「ハイブリッドピッチ」。天然芝のピッチに人工芝を植え込んで良い状態を保つという触れ込みだが、昨年の試合時には天然芝の根付きが悪く、キックのたびに砂が舞い散っていた。
そしてプノンペンの国立競技場は人工芝。国際サッカー連盟の援助で昨年敷設されたばかりだが、ボールがバウンドするごとに黒いチップが飛散し、素早いパス回しに適しているか疑問だ。
どこで戦っても悩みになるのがピッチ。だがそれがホームアンドアウェーで戦うワールドカップ予選というもの。日本サッカー協会は身体接触に対して「たくましい」選手づくりを提唱しているが、どんなピッチにも合わせられるたくましさ、適応力も、重要な要素に違いない。
(2015年10月21日)
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