サッカーの話をしよう
No.1046 ラーゲルベックとアイスランド
「サッカーという競技の良いところは、最高の個人技をもっていなくても、チームとしての良いパフォーマンスで勝つ道がいつもあることだ」
強豪オランダを退けて来年フランスで開催される欧州選手権への出場権を獲得したアイスランド。スウェーデン人のラルス・ラーゲルベック監督は、最近のインタビューでこんな話をしている。
アイスランドは北大西洋に浮かぶ火山島の国。グリーンランドの南東に位置し、世界最北の独立国として知られている。首都レイキャビクは北緯64度13分。北極圏に近い。国の総人口は約33万人にすぎず、これからプレーオフで決まる4カ国を含めても、来年の欧州選手権出場24カ国のなかで最も小さな国だ。
意外なことにアイスランドの寒さはフィンランドやスウェーデンほどではない。しかし10月から7カ月間にわたって猛烈な強風が吹き続け、野外でのプレーを不可能にしてしまう。ようやく近年になって屋内スタジアムが7つも造られ、レベルが上がった。
日本代表は2012年2月に大阪でアイスランドと対戦した。「国際試合日」ではなかったため国内組だけ。アイスランドも北欧のリーグ所属選手だけでの対戦。前年10月にラーゲルベック監督が就任して初試合のアイスランドに対し、ザッケローニ監督就任2年目で前年にはアジアカップも制した日本が3-1で勝った。
アイスランドはこの年の秋から翌年秋まで開催されたワールドカップ予選で奮闘、プレーオフに進出したが、クロアチアに敗れた。しかし今回の欧州選手権予選ではオランダを相手にホームでもアウェーでも快勝、全10試合のうち2試合を残した時点で2位以内を確保、初出場を決めた。
予選のハイライトは無失点で連勝したオランダ戦。昨年10月のホームゲームではMFシグルドソンの2点で2-0の快勝。ことし9月にアムステルダムで行われた試合もGKハルドルソンの好守でしのぎ、後半に得たPKをシグルドソンが決めて1-0で勝った。チーム全員の献身的な守備とともに、攻撃に切り替わったときの果敢なランニングと相手ゴールに向かう姿勢は、まさにラーゲルベック監督が言う「チームとしての良いパフォーマンス」だった。
ラーゲルベック監督就任時に108位だったFIFAランキングは、4年後のこの10月には23位にまで上昇した。
「ルールは最小限にし、選手たちにプロとしての責任感を求めた」とラーゲルベック監督。何に対して責任感をもち、その責任感をどのような行動で示すべきか―。ワールドカップにも匹敵するメジャーな国際大会初出場は、アイスランドの選手たちが理解し実践した結果に違いない。
(2015年10月28日)
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