サッカーの話をしよう
No.1050 ドラマチックなリーグ最終日
「どんな作家でもこんなシナリオは書けない」
あるサッカー番組で、司会者がこう表現した。11月23日、日本の各地でJ2が11、J3が6つ、計17の試合が行われた。どちらも最終節。そして昇格をめぐって、予想もつかないドラマがあった。
優勝ならJ2に自動昇格、2位ならJ2の21位と入れ替え戦となるJ3。最終戦を前に、1位山口と2位町田が勝ち点77で並んでいた。得失点差では山口が大きくリードしている。
山口は鳥取、町田は長野と、ともにアウェーゲーム。開始早々に失点して苦しんだ山口だったが、後半17分にFW岸田のヘディングで追いつく。その直後には、町田が長野に先制点を許し、山口ベンチに安堵(あんど)の表情が広がる。
だが10分後、鳥取のMFフェルナンジーニョに個人技で決められ1-2。するとこんどはその直後に町田が同点に追いつく。そして町田はそのまま1-1で引き分ける。
山口が負けなら優勝は町田だ。だが時間がなくなっても山口はパスをつなぐスタイルを捨てず、「4分間」と示されたロスタイムが過ぎても辛抱強くチャンスをうかがう。そしてロスタイムが5分を回ったとき、ゴール右でパスを受けたMF平林が思い切りよくシュート、密集を抜けて低く決まり、2-2の同点。山口のJ3昇格1年目での優勝とJ2昇格が決まった。
J2は前節に大宮の優勝とJ1昇格が決まり、残りひとつの「自動昇格枠」をめぐって磐田と福岡がともに79勝ち点で争っていた。
こちらも得失点差で勝る磐田が有利な状況。しかし磐田は21位でJ3との入れ替え戦出場が濃厚な大分の奮闘に苦しめられ、ようやく先制点が生まれたのは後半17分。この時点で福岡は岐阜と1-1だったが、その後3連続得点して4-1と勝利を決定的にした。だが得失点差で磐田を追い抜くことはできない。
ところが後半45分、大分のMFパウリーニョが強烈なロングシュートを決め、磐田は同点に追いつかれる。このまま終われば福岡が昇格だ。
だが磐田の闘志はくじけなかった。左から攻め上がり、MF上田がクロス。FW森島のジャンプは届かなかったが、その背後に走り込んだMF小林が胸で止め、得意の左足を振り抜くと、ボールはGKの手をはじいてネットに突き刺さった。同点にされてから決勝ゴールまで、わずか62秒間の出来事だった。
J2もJ3もあまりに劇的だった最終日。しかし町田も福岡も落ち込んでいる時間はない。町田は大分との入れ替え戦が、そして福岡はJ1昇格の最後の1枠をかけた「プレーオフ」が11月29日に始まる。
(2015年11月25日)
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