サッカーの話をしよう
No.1053 スタジアム革命
2015年はなでしこジャパンの女子ワールドカップ決勝進出はあったが、日本のサッカー全体を振り返ると「苦戦の年」だった印象がある。
男子アジアカップは準々決勝敗退。日本代表監督に就任する前の八百長疑惑でアギーレ監督が契約解除となり、代わったハリルホジッチ監督下でもぱっとしない試合が続いている。AFCチャンピンズリーグは、ことしも優勝カップに手が届かなかった。
だがその年の終わりに、そんな暗雲を吹き飛ばし、これからの日本サッカーの大きな指針になるような革命的なものが完成した。来季ガンバ大阪のホームとなる「市立吹田サッカースタジアム」だ。
4万人収容、日本代表の国際試合もできるサッカー専用スタジアム。直線の組み合わせでできた外観だけでそのすばらしさが想像できる。そして一歩足を踏み入れると、期待を上回る世界第一級の施設であることがわかる。
スタンドとピッチの距離は選手に手が届きそうなほど近い。ゆったりとした座席、第一層のスタンドの背後に設けられた広いコンコース、観客席を完全に覆う屋根...。ストレスなしに観戦を楽しむことを最優先に考えた設計思想を感じ、知らないうちに頬がゆるんでいる自分に気づく。
同時に、美しい八角形の外観は軽量で耐震性の高い屋根の設置を可能にし、その屋根につけたソーラーパネル、照明をすべてLEDにするなど、最新の安全技術とエコ技術が採り入れられている最先端のスタジアムでもある。
だが「革命的」なのはそうしたことではない。140億円の建設費は、106億円近くを法人や個人からの募金でまかない、そこにスポーツ振興くじを中心とした補助金を加えて達成した。一切、国や自治体の手をわずらわせずに造り上げたスタジアムなのだ。「市立」になったのは完成後に吹田市に寄贈されたため。管理運営は全面的にガンバ大阪に任されている。
いわばサッカーファンとサッカーを応援する地域財界の手だけでつくられたスタジアム。だからこそ、使用するクラブや選手、そしてそこで試合を楽しむファンのために徹した施設が実現したのだ。
2016年に24季目を迎えるJリーグ。初期のスタジアムの大半は「代替わり」したが、2002年ワールドカップで使用したスタジアムも陸上競技型のものは時代後れになりつつある。新時代を切り開くことができるのは「利用する者」が主体的に建設するスタジアムに違いない。
正面ゲートの前に立つと、スタンド一体の歓声やファンの笑顔まで感じることができる。このスタジアムは、間違いなくガンバ大阪と日本のサッカーに新しい時代を開く。
(2015年12月16日)
1993年から東京新聞夕刊で週1回掲載しているサッカーコラムです。試合や選手のことだけではなく、サッカーというものを取り巻く社会や文化など、あらゆる事柄を題材に取り上げています。このサイトでは連載第1回から全ての記事をアーカイブ化して公開しています。最新の記事は水曜日の東京新聞夕刊をご覧ください。