サッカーの話をしよう

No.1058 ニアポストには黄金が埋まっている

 劇的な逆転で優勝を飾ったU-23アジア選手権。日本に勝利をもたらしたのは「ニアポスト」への走りだった。
 韓国との決勝戦、0-2から1点を返した直後の後半23分。左サイドをDF山中亮輔が突破してコーナー付近から送ったクロスを、MF矢島慎也が走り込みざま頭で韓国のゴールネットに突き刺した。
 この直前、ゴール前にいたFW浅野拓磨はボールに近寄るように左に走り、ゴールエリアの角あたりでボールにとびついた。190センチの韓国DF宗株薫が懸命に浅野に競りかけるが、ボールはふたりの頭上を越える。そして右からがら空きになったゴール前にはいってきた矢島の頭がボールをとらえたのだ。
 サイドからパス(クロス)を送るとき、ボールから近い側のゴールポストを「ニアポスト」、遠い側を「ファーポスト」と呼ぶ。そしてその前のピッチ内の地域も同じ名前で呼ばれている。
 「クロスからヘディングシュート」というと、ゴール正面で高くジャンプしたFWが豪快にヘディングで叩き込むというイメージが強い。しかしそんな得点はめったにない。クロスからの得点の多くはニアポストへの走り込みから生まれる。
 「ニアポストへの走り」の発案者はイングランドのウェストハムを率いたロン・グリーンウッド監督。1960年代はじめ、彼はこの戦術でクラブに数々のタイトルをもたらし、その選手たちが1966年ワールドカップで実践して優勝の原動力となった。
 決勝の対西ドイツ、イングランドが1-1の同点としたゴールがまさに「ニアポストランによる得点」だった。DFボビー・ムーアがFKをけり、ニアポストに走り込んだFWジェフ・ハーストがヘディングで決めた。ふたりともウェストハムの選手だった。
 速いクロスをニアポストに送り、走り込んだ味方が相手より1センチでも前で触れることができれば、決定的なチャンスとなる。GKには反応する時間などない。
 「前で」というところが重要だ。相手より長身である必要はない。相手より高く跳ぶ必要もない。まさに日本人向きの戦術ではないか。
 ニアポストで決められなくてもだいじょうぶ。相手チームはそこに引きつけられるから、ボールがゴール前に流れれば大きなチャンスとなる。
 韓国との決勝戦終盤、日本は常にニアポストを狙っていた。1点目の直前のチャンスはMF原川力の低いクロスにニアポストで浅野が合わせた。そして矢島のスルーパスから生まれた1点目も、浅野はニアポストに走り込んでワンタッチでGKの肩口を抜いた。
 ニアポストには、黄金が埋まっている。

(2016年2月3日) 
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