サッカーの話をしよう
No.1065 手をかけたら負け
相手の体に手をかけて押さえれば「ホールディング」の反則であり、相手チームに直接フリーキック(FK)が与えられる。その反則を自陣のペナルティーエリア内で犯せば、相手チームにペナルティーキック(PK)が与えられる。自明の理である―。
2014年ワールドカップ・ブラジル大会の開幕戦、クロアチアのDFがブラジルのFWに手をかけ、倒した。日本の西村雄一主審は即座に笛を吹き、ブラジルにPKを、そして手をかけたクロアチアDFに警告を与えた。
倒れ方が大げさだったこともあり、「演技だ」「あれでPKはおかしい」など、西村主審は批判にさらされた。だがFIFAは「正しい判定だった」と声明を出した。
現在のルールブックには直接FKになる10の反則が挙げられている。そのうち7つには、それを「不用意に、無謀にまたは過激な力で」犯したときに反則になると明記されている。すなわち行為の程度が問題になる。
しかし「(手で)押さえる」「相手につばを吐く」「ボールを意図的に手または腕で扱う」という3種類の反則は、ただその行為をすれば反則となる。こうした行為は、プレーの流れのなかで偶然生まれるのではなく、行為自体に意図があるからだ。
クロアチアのDFはブラジルFWに手をかけ、ブラジルFWが倒れた。だから反則であり、PKだったのだ。
だが、この重要な教訓があまり理解されていないのではないか。最近のJリーグを見ていると、手で押さえる行為が横行しているのだ。
3月16日に行われたAFCチャンピオンズリーグの広州恒大(中国)対浦和レッズ。試合開始直後に与えたPKが浦和に重くのしかかった。相手のCKのときに浦和FWズラタンが後ろから相手DF梅方の体に手を回し、梅方が大げさに倒れた。主審はこれを見逃さなかった。
確かに梅方の倒れ方は不自然だった。偶然だろうが、2014年のブラジル代表も現在の広州も監督はルイス・フェリペ・スコラリである。しかしズラタンが梅方の体に手をかけていたのも事実である。
浦和は昨年のJリーグでも同じような反則でPKを取られている。CKのときのマークの仕方を見ていると、多くの選手が両腕を相手の体に回している。外されないようにということなのだろうが、事前にこの癖を知っていれば「利用」するのはたやすい。
浦和だけの話ではない。マークするために相手をつかんだり、相手の体に手を回せば、その時点で「負け」だ。この悪癖、あるいは「間違ったプレー方法」をすみやかに一掃する必要がある。
(2016年3月23日)
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