サッカーの話をしよう
No.1069 非常時にも安心できるスタジアム運営
「スポーツのもつ力、社会を明るくする力というものがあると思う」
4月14日から続いている熊本地方の地震のなか、基本的にリーグ戦を継続すると決めたJリーグ。16日の浦和×仙台戦後、村井満チェアマンは「支障のない限り開催していきたい」と語った。
この日は、J1の福岡×名古屋と鳥栖×神戸の2試合が中止になった。さらに翌17日には、J2の長崎×水戸、J3の鹿児島×相模原、大分×福島と、九州を舞台とする3試合の開催が見送られ、熊本の京都とのアウェー戦も開催できなかった。
この17日には、日本海を突っ走った台風なみの低気圧による暴風の影響で、J2の金沢×愛媛とJ3の富山×鳥取の2試合も中止になった。山形で開催されたJ2の札幌戦は、午後2時の開始時には穏やかに晴れていたのだが、突然の雷雨に襲われ、前半36分から40分間もの中断を余儀なくされた。
大自然の力の前で、私たちは無力だ。ただ、無理な試合開催や試合続行によって事故が起こるようなことに至らなかったのは良かった。
J3の試合でも数千人、J1の人気カードになると数万人が集まるJリーグの試合。開催時に大きな地震に襲われる危険性は皆無ではない。今回の九州中部の震災では「活断層」という言葉が頻繁に使われているが、地質学者の山崎晴雄さんによると、「日本の大きな盆地や平野の縁には必ず活断層がある」(NHK『富士山はどうしてそこにあるのか』)という。日本の都市は、そしてJリーグのスタジアムは、いつ今回のような大地震に襲われても不思議ではないということになる。
こうした国土から逃げることができないのなら、実際に大地震がきたときに「震災」すなわち被害を最小にとどめる努力をするしかない。
あるクラブの運営スタッフによれば、スタジアム自体にも避難誘導のマニュアルがあるが、それをベースにクラブは警備会社と独自のマニュアルをつくり、シーズン前には全スタッフが集まって演習を行っているという。そして試合前には、場内放送で、「このスタジアムは耐震設計がなされています。安心して席にお留まりください」などのメッセージを流すという。
20年近く前、浦和レッズのホームゲームで雷雨になり、一時中断を余儀なくされた。当然、屋根がない観客席のファンも避難しなければならないのだが、女性の場内アナウンスが低いトーンの冷静な声で誘導していたのに感銘を受けた覚えがある。
非常事にも安心できるスタジアム。それでこそ、「スポーツの力」が発揮される。
(2016年4月20日)
1993年から東京新聞夕刊で週1回掲載しているサッカーコラムです。試合や選手のことだけではなく、サッカーというものを取り巻く社会や文化など、あらゆる事柄を題材に取り上げています。このサイトでは連載第1回から全ての記事をアーカイブ化して公開しています。最新の記事は水曜日の東京新聞夕刊をご覧ください。