サッカーの話をしよう
No.1075 大量得点の文化
先週のキリンカップ初戦、ブルガリア戦での日本代表の7ゴールには驚いた。前半はシュート8本で4点。チャンスのたびに得点が生まれる感覚だった。後半もシュート9本で3点を追加した。
サッカーの大量点はそう簡単に生まれるものではない。
「バイエルンなら5点か6点取ったと思います」
浦和レッズのミハイロ・ペトロヴィッチ監督は勝利後によくこんなことを話す。圧倒的な攻勢をかけ、見事な得点を重ねてもせいぜい2点止まり。その後に1点を返されて最後はあたふたしてしまうことも多い。
対照的なのはドイツのブンデスリーガで4連覇を飾ったバイエルン・ミュンヘン。2015/16シーズンには6得点試合こそなかったが、カップ戦などを含めた全55試合中、5得点が6回、4得点が4回、そして3得点が12回もあった。
ドイツといえば2014年ワールドカップの準決勝、ブラジル戦だ。「事実上の決勝戦」で、ドイツ代表は7-1という信じ難いスコアで大勝した。前半11分に先制、23分からの6分間で4ゴールをたたみかけ、気落ちしたブラジルが我に返ったときには5-0と差を広げていた。後半は奮起したブラジルの攻勢にさらされたが、見事な攻撃で2点を追加、ブラジルが1点を返したのは終了直前だった。
バイエルンやドイツ代表を見ていると、点差が開いてもプレーの姿勢が変わらないことが目につく。気をゆるめたり運動量が落ちることなどなく、全員が「すべきこと」をかたくななまでにし続ける。ブラジル戦では、3点目を取ったMFクロースがその余韻も覚めない2分後に相手陣深くで厳しくプレスをかけてボールを奪い、味方に渡して返ってきたところを決めた。
日本代表はブルガリア戦で前半4点を奪った後に後半の序盤にも2点を決めて差を広げたが、その後がゆるんだ。「次は自分が取りたい」という気持ちがまん延してチームプレーが壊れ、リズムが崩れて逆に2失点を喫した。
浦和のペトロヴィッチ監督が嘆くのは、点差に関係なくするべきことを90分間やり抜くメンタリティーの欠如だ。1点リードしたら追加点を取るよりそれを守ることに気持ちが傾いてしまう。差が2点に広がったらそれで勝ったつもりになり、ゆるみが出る。ドイツのような強いメンタリティーをもてなければ、日本のサッカーが次のステップに上がることはできない。
ところで、サッカーには、「準決勝で大勝したチームは決勝で苦しむ」という鉄則がある。ドイツ代表でさえ、ブラジルに大勝した後の決勝ではアルゼンチンに延長戦に持ち込まれた。残念ながら、昨夜の日本も例外ではなかった。
(2016年6月8日)
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