サッカーの話をしよう
No.1082 小笠原満男 中盤に網を張る守備
「こういう『守備力』もあるのか―」
改めて目を開かされる思いがした。鹿島アントラーズMF小笠原満男である。
先週末、カシマスタジアムでJリーグ第2ステージ第5節の浦和戦を見た。第1ステージ優勝の鹿島対3位に終わった浦和。年間勝ち点上位争いに関わる重要な一戦だ。
小笠原の異様な能力に気づいたのは後半なかばだった。1-1の状況で、鹿島は攻撃の圧力を高めた。次々とペナルティーエリアに送り込まれるボール。浦和守備陣が懸命にはね返す。そのボールが、驚くべき確率で小笠原のところに飛ぶのだ。確実に止め、的確に味方につなぐ小笠原。鹿島が2次攻撃をかける。
若いMF柴崎岳と「ボランチ」を組む小笠原。攻撃になると、柴崎は右サイドを中心にどんどん前線の選手たちにからんでいく。小笠原は大きく空いた中盤をほぼひとりでカバーし、浦和のクリアを磁石のように引きつける。
「守備力のあるMF」というと、一対一でボールを奪う能力の高い選手というイメージが強い。この面で現在のJリーグで際立つ存在が新潟のレオシルバだ。相手への寄せが速く、足を出せばほとんどボールを自分のものとし、奪ったボールは相手との間に体を入れて絶対に奪われない。
小笠原も一対一に強く、ボールを奪う力は高い。しかしこの日私が見たのは、広大なスペースのなかにぽつんと立っているように見えて、まるで巨大な網を張っているかのようにクリアをつかまえる、尋常ではない能力だった。
帰宅してからビデオで確認してみた。後半15分からの15分間で、小笠原は5回もこの能力を披露していた。
相手がぎりぎりのところでクリアするボール。鹿島がこうしたボールを回収したのは前半の45分間で8回。何人もが中盤で待ち構えるなか、小笠原はその半数の4本を拾った。後半45分間では15本中8本。だが後半なかばの15分間では鹿島が拾った8本のクリアボールのうち小笠原のところに5本も飛んできたのだ。この時間帯、どちらかといえば小柄な小笠原がどんどん巨大化するようにさえ感じた。
1979年4月5日岩手県生まれ、37歳。鹿島とともに6回のリーグ優勝を経験し、J1出場484試合。2011年の大震災後に「東北人魂をもつJ選手の会」を立ち上げ、率先して被災地支援活動を続けてきたことでも知られる小笠原。
身長173センチ、フィジカルに恵まれているわけではない。他に類を見ない能力は、経験とともに、誰にも負けたくないという気持ち、そして抜群の頭脳から生まれたものに違いない。小笠原の「特技」に、「守備」というものの奥深さを見た思いがした。
(2016年7月27日)
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