サッカーの話をしよう
No.1086 『テレビの力』を見せた真実の瞬間
「テレビの力」を、まざまざと見る思いがした。9月1日のワールドカップ予選UAE戦である。
後半32分に日本代表FW浅野が放ったシュートは、懸命に戻ったUAEのGKエイサが空中でかき出した。ゴールラインを超えていたのかどうか、記者席の私には確認できなかった。だが帰宅して録画しておいた放送を見るとボールが完全にゴールラインを割った「証拠映像」があった。
この日はテレビ朝日とNHK・BSの2局で生中継があった。NHKのリプレーは斜め手前からゴールを映したもので、完全にラインを割ったかどうか確認はできない。しかしテレビ朝日の放送では、ゴールラインの延長線上に設置したカメラがまさに「そのシーン」をとらえていた。
私には近年の日本のサッカー放送に大きな不満がある。Jリーグの放送の大半は、オフサイドなど試合を決める重大な場面があっても判定の正誤を検証するリプレーがほとんど出ない。より正確に言えばカメラの台数が足りず、検証できる角度の映像自体がないのだ。瞬間的に、あるいは隠れた角度で何が起こっていたのか、それを白日の下にさらすのがテレビ放送の最大の「武器」のはずなのだが...。
「ことしの欧州選手権などで刺激を受けて、ホスト放送局として最高の映像をつくろうと計画しました」
9月1日の番組を担当したテレビ朝日の桜井健介プロデューサーはそう話す。Jリーグの放送ではカメラは6、7台だが、この日はピッチ上空を瞬時に移動する「スパイダーカメラ」も含めその4倍の30台近くを投入した。そして初めて設置されたのが「ゴールラインカメラ」だった。
「河本祐典チーフディレクターと技術チームが研究を重ね、観客席の手すりに無人の小型カメラを固定しました」
その最初の試合で決定的なシーンが生まれるとは、桜井さんでさえ予想しなかった。リプレー挿入のタイミングも絶妙だった。そして世界中が「幻のゴール」を知った。
カタールの審判団にとっては厳しい「証拠映像」だったかもしれない。だが私は「中東の笛」などと彼らを非難する気にはなれない。NHKの映像の角度でさえ確信はもてないのだ。主審はもちろん、副審も動きながら確認するのは極めて難しい。現行の審判制度では見きれないから、世界中が「ゴールラインテクノロジー」や「追加副審」、さらには「ビデオ副審」に血眼を上げているのではないか。
だがそうした議論も元になる「真実の映像」があればこそ。当然、制作費の制約はあるだろうが、真実を明らかにする「テレビの力」をもっともっと追及してほしいのだ。
テレ朝がとらえた「真実」の瞬間
NHKの映像では確信はもてない
(2016年9月7日)
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