サッカーの話をしよう
No.1092 ミシャの『初タイトル』
もしかすると、ミシャはタイトル獲得で不幸せになってしまうのだろうか―。一瞬だが、そんな思いがよぎった。
先週土曜日に行われたJリーグ・ルヴァンカップ決勝。浦和レッズが13年ぶりの優勝を飾った。ファンやサポーターから「ミシャ」の愛称で呼ばれるミハイロ・ペトロヴィッチ監督(59)にとっては、初のメジャータイトルだった。
旧ユーゴスラビア、現在のセルビア出身。選手時代はユーゴ代表歴ももつ。指導者になってスロベニアとオーストリアのクラブを率いた後、2006年6月にサンフレッチェ広島の監督に就任、MF柏木陽介(現浦和)ら若手を起用して大胆な攻撃サッカーを展開、強豪に仕立て挙げた。そして広島との契約が切れた2012年に浦和の監督に就任した。
そんななかでミシャは「タイトルの取れない監督」というレッテルを貼られてきた。浦和では毎年のようにリーグ優勝争いで最後に脱落し、カップ戦でも広島時代から4回連続で決勝戦で敗れてきたからだ。圧倒的な強さを誇った昨年、チャンピオンシップ準決勝で「過去最高の内容の試合」(ミシャ)をしながらG大阪に屈したのは痛かった。
全員で動きながらパスをつなぎ、チャンスをつくるサッカー。ときには7人、8人が相手ペナルティーエリアに迫る勇敢な攻撃は、相手にカウンターアタックを受けるリスクと背中合わせだった。
ことしミシャは興味深い目標を語った。「出場するすべての大会で昨年より一歩前進する」。今季の浦和はその目標を着実に達成してきた。そして手にしたのが「ルヴァンカップ優勝」だった。
表彰式に臨む選手たちを、ミシャはピッチから見上げていた。だがその表情は、どこか寂しげに見えた。
「タイトルを取る前と後とで、私はベターな監督になっただろうか。個人的には、何も変わっていないと思う」
この試合を前に彼は1週間もひげを剃らなかった。何かを変えたかった。それほどまでに欲しいタイトルだった。
最高のコンビネーション攻撃を見せても、無冠というだけで評価されなかった。だがタイトルを取ればすべてが変わるのか―。彼の胸には、やり続けてきたことへの自信と、世間の評価というものの空しさが交錯していた。
初優勝という大きな山を乗り越え、ミシャは今後タイトルを積み重ねていくだろう。だがそれで彼が不幸せになるというわけではないようだ。続く言葉には、彼らしい優しさがあふれていた。
「私にとって非常にうれしいのは、長い間待ちわびていたファン、サポーターにこのタイトルを捧げられたことです。そしてこれまでがんばってきた選手たちが幸せな気持ちであることです」
(2016年10月19日)
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