サッカーの話をしよう
No.1094 スポーツとしての正義なき2ステージ制
「どんな結果であれ、良いサッカーが勝利者となりますように」
2008年1月、東京の国立競技場で日本代表がボスニアヘルツェゴビナ代表と対戦した。前年11月に脳梗塞で倒れて日本代表監督を退いたイビチャ・オシムさんがリハビリ入院中の病院から観戦に訪れ、大型スクリーンにそのメッセージが流れた。
生命を削るように指導してきた日本代表。そして自らの祖国であるボスニア代表。その対戦に、70歳を目前にしたオシムさんも心躍らないわけがなかった。
さて、24シーズン目のJリーグもいよいよ大詰め。明日3日には「第2ステージ」の最終節9試合が開催される。浦和と川崎の「年間勝ち点1位争い」が最大の注目だ。
昨年、Jリーグは「スポンサー収入の大幅減」を理由に2ステージ制の導入を決断した。最多5チームによるプレーオフ「チャンピオンシップ」で得られる放映権料で収入を確保する狙いだった。
多方面から激しい反対意見が出た。Jリーグ自体も、本来の形ではないことを認めていた。だが財政面の理由で踏み切った。実際には昨季開幕前に「タイトルパートナー」契約の獲得に成功し、財政面での不安は解消されていた。それでもJリーグは2ステージ制を2シーズン続けた。
プレーオフにはビジネス上のメリットはあるだろう。しかし1年間の努力より短期決戦が重い制度に、「スポーツとしての正義」はない。昨年は年間勝ち点2位(72)の浦和が3位(63)のG大阪に準決勝で敗れ、記録上の年間順位は3位となった。
第1ステージはともかく、第2ステージにはいると下位のチームはステージ順位など眼中になくなる。残留と降格は両ステージを通算した年間順位で決まるからだ。誰も気にしていない第2ステージ優勝チーム決定を声高に報じるテレビのニュースが空しい。
先週第2ステージ優勝を決めた浦和にも、興奮はなかった。チャンピオンシップで決勝にシードされる年間1位の座に、川崎が勝ち点1差で追いすがっているからだ。優勝トロフィー授与のセレモニーの寒々しさは、Jリーグが2シーズンにわたって行ってきた愚行を象徴していた。
圧倒的にボールを支配しても、良い試合をしても、何本シュートを放っても、勝てるとは言えないのがサッカーの難しさであり、同時に面白さでもある。だができるなら、より良いサッカーをしたチームが、そして年間を通じて1ポイントでも多くの勝ち点を取ったチームが、勝者として称えられてほしいと思う。
オシムさんの言葉は、サッカーを愛するすべての人の祈りに違いない。
(2016年11月2日)
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