サッカーの話をしよう
No.1099 アフリカ最南端の『志』
FIFAクラブワールドカップの準々決勝、鹿島アントラーズは後半の見事なサッカーで南アフリカの「マメロディ・サンダウンズ」を2-0で退け、準決勝に進んだ。だがこの試合の最大のハイライトは、敗れたマメロディの驚くべきサッカーだった。
マメロディとは南アフリカの首都プレトリア都市圏東端に位置するタウンシップ(アパルトヘイト時代の黒人隔離地区)の名。1960年代に生まれたサンダウンズは1985年に大金持ちのオーナーを得て一躍強豪にのし上がった。オーナーはクラブユニホームをブラジル代表と同じ黄色と水色にし、まもなくサポーターはチームを「ブラジリアンズ」と呼ぶようになる。
わずか数年後、このオーナーの資金が犯罪で得られていたことが露見し、クラブはピンチに立つ。しかし銀行管理を経て現在は世界有数の金持ちと言われるオーナーが保有し、毎年のようにタイトルを取り、ことしついに全アフリカ・チャンピオンとなった。
だが鹿島戦で見たマメロディは、ただの「金満クラブ」ではなかった。52歳のピツォ・モシマネ監督率いるチームは、日本代表のハリルホジッチ監督が見たら惚れ込むような鍛え上げられた現代サッカーを披露したのだ。
特徴は「スピード」だ。
個々の選手の走る速さ、反応の速さはもちろんのこと。そこに判断の速さ、切り替えの速さ、そして相手ゴールに向かう速さが、高い技術と球際の強さとともに加わる。
中盤でプレスをかけてボールを奪った瞬間、前線の選手がスペースに動き、そこにワンタッチでパスが出る。受けた選手はすぐに前を向き、スピードドリブルを始める。
自陣でDFがフリーでボールをもつと、前線の3人、4人の選手が迷わず相手DFラインの裏に飛び出す。そこに正確なロングパスが飛ぶ。
鹿島に息つくひまも与えないスピーディーな攻撃は、まさに世界のひとつの潮流を示すもので、こんなモダンなサッカーがアフリカで行われているのかと、FIFA技術委員会のメンバーも驚きの表情を隠せなかった。前半だけでシュート11本を放ったマメロディに対し、鹿島のシュートは0。さしもの鹿島が何もできない形だったのだ。
残念ながら、大阪まで1万3000キロ、27時間をかけて試合の5日前に大阪に着いたマメロディの動きは後半がくんと落ち、逆にスピードアップした鹿島に2点取られて敗れたが、前半の動きがあと15分間続いていたら鹿島はもちこたえられなかっただろう。
「我らに限界なし」がクラブモットーのマメロディ。アフリカ南端で世界を見据えた挑戦的なサッカーを身に付けた「志」には、勝敗にかかわらず学ぶべきものがある。
(2014年12月14日)
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