サッカーの話をしよう
No.1100 歴史的なVAR判定
サッカーの新時代がこの日本で幕を開けた。「ビデオ判定」の導入である。
2016年3月に「試験運用」が認められたばかりの「ビデオ副審(VAR)システム」。12月18日まで横浜と吹田(大阪)で開催されていたFIFAクラブワールドカップ(FCWC)で公式戦を使った初めての集中的なテスト導入が実施され、大きな反響を呼んだ。
スタジアム外の判定室で多角度からの映像を見ながらピッチ上の判定をチェックするVAR。その「活躍」が表面に出たケースが大会中に2回あった。準決勝の鹿島対ナシオナルとレアル・マドリード対アメリカ。VARによって鹿島にPKが与えられ、またレアルの2点目が副審の判断どおりオフサイドではなかったことが確認された。
最初のケースでは、ハンガリーのカサイ主審は当初反則とは判断しなかったのだが、プレー中断後にVARのマケリー審判員(オランダ)に示唆を受けて自らピッチ横に置かれたモニターを参照し、最終的にPKの判定を下した。
ただ、プレーが切れるまでに45秒もの時間があってその間にボールが両チームの間を何回も往復し、延べ13人の選手がプレーした。さらに主審とVARのやりとり(無線システムを用いた対話)に1分間以上、カサイ主審のモニターチェックに20秒間近くと、判定が下されるまでに合計2分半近くかかってしまった。
実は非常に複雑なケースだった。FK時に鹿島DF西が倒されたのだが、西はオフサイドポジションだった。主審はまず西がボールに関係する位置ではなかったことを確認する必要があったのだ。
一方、レアルの得点の場面では、カセレス主審(パラグアイ)のジェスチャーがあいまいだったこともあり、混乱を招いただけでなく、得点の感動をなんとも間の抜けたものにしてしまった。
このシーンでは、VARの手元にオフサイドの判定をする精密な映像があることが後に明らかにされた。ファンの騒ぎを防止するため、サッカーでは微妙な判定の映像は場内には流さないことになっている。だがビデオ判定の場合には「証拠映像」を示したほうが混乱が少なくなるように感じた。レアルの得点の場面では、あの微妙な場面を「オフサイドでない」と判定した副審の超人的な能力もクローズアップされたはずだ。
「流れを中断するこのシステムはよくない」という選手からの意見も聞かれたが、私自身は運用方法を磨いていけば非常に有用なシステムであると感じた。ただVARの人材確保や多角度からの映像製作など高いハードルがあり、使うことのできる大会がごく限られたものになるのは避けられないだろう。
Photo by Shaun Botterill - FIFA/FIFA via Getty Images
(2016年12月21日)
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