サッカーの話をしよう
No.1111 小倉に夢のスタジアム
「バックスタンドの背後がすぐ海で、その向こうには企救半島の山々を望むことができます。関門海峡や下関も見えるんです。潮風に吹かれながらの観戦は、きっと最高の気分だと思いますよ」
興奮ぎみに語るのはJリーグでスタジアムプロジェクトを率いる佐藤仁司さん。そしてその夢のようなスタジアムとは、3月12日に開幕するJ3のギラヴァンツ北九州の新しいホーム、「ミクニワールドスタジアム北九州」である。
2008年以来、北九州は市の西部にある市立本城陸上競技場で試合を開催してきた。だが2010年にJリーグ(J2)に昇格すると、アクセスの良い球技専用スタジアム建設の要望が高まった。市は2012年に計画をまとめ、2015年4月に着工、ことし1月末に完成した。
何より交通の便が最高だ。山陽新幹線も停車するJR小倉駅から北へ500メートル。歩行者専用デッキを使い、最後は専用の巨大歩道橋を渡って信号なしで7分で着く。小倉は九州の玄関口であると同時に百万都市北九州の中心地。まさに「町中スタジアム」だ。
西側のメインスタンド、南北の両ゴール裏スタンドは総屋根式の二層構造。しかし東側のバックスタンドは屋根がなく、わずか11列の一層式。当初の2万人規模の予定を1万5000人規模に縮小したことで、海中からそそり立つ2階席建設が先延ばしになったためだ。だがそれが、海に向かって開けた希有なスタジアム景観をつくりだした。
この東側スタンドは高さが6.5メートルしかなく、すぐ背後は海。2月18日にこけら落としとして行われたスーパーラグビーのサンウルブスの試合でもいちどボールがスタンドを超えてしまい、主催者であるラグビー協会が用意したゴムボートで回収したという。「海ポチャ」は、Jリーグの新名物になるかもしれない。
建設費は約100億円。うち30億円をスポーツ振興くじ(toto)の助成金でまかなった。年間の維持費は借地料を含めて1億5000万円と見積もられ、地元の不動産会社が命名権を取得して年間3000万円を負担する。
J2加盟以来、ギラヴァンツ北九州は着実に力をつけ、昨年秋、新スタジアムがJ1規格を満たしたことで「J1ライセンス」も取得した。しかし昨年のJ2では信じ難い不調に陥り最下位。新スタジアムの初年度を初のJ3で迎えることになった。
だが夢のような新スタジアムで間近に選手たちに声援を送ることができるようになったサポーターたちの士気は高い。原田武男新監督の下で迎えるJ3開幕のブラウブリッツ秋田戦は、市主催の「ミクスタ」開場式に続いて行われる。ギラヴァンツにとって、新しい歴史のスタートだ。
(2017年3月8日)
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