サッカーの話をしよう
No.1113 オアシスの町アルアイン
明日(3月23日)夜、日本代表はアルアインで地元UAEと今回のワールドカップ予選で最も重要な試合に臨む。勝てば「ロシア行き」に大きく前進する。勝てなければ非常に苦しい状況に追い込まれる。
UAEはこれまでの予選ホームゲームのすべてをアブダビで戦ってきたが、日本戦はアルアインに会場を移した。
代表チームのベースのひとつがアルアインFC。昨年9月の日本戦では、エースのMFオマル・アブドゥルラフマンを筆頭に先発のうち6人がアルアインFCの選手だった。紫のユニホームで知られるアルアインFCは、2003年の第1回AFCチャンピオンズカップ優勝チームである。
アルアインは内陸のオアシスの町。「アイン」とはアラビア語で「泉」を意味する。周辺には、荒涼とした砂漠が広がっている。
アラビア半島の東にあるUAE(アラブ首長国連邦)。アルアインは連邦を構成する7つの首長国のひとつアブダビ首長国に属し、ともにペルシャ湾に面する連邦首都のアブダビ、連邦最大の都市ドバイとは、いずれも130キロほどの距離で「正三角形」のような位置関係になる。オマーンとの国境の町でもある。
ここに人類が住み始めたのは紀元前5000年、日本でいえば、縄文時代中期だという。周囲には当時からの遺跡が点在しており、「アルアインの文化的遺跡群」として2011年に世界遺産に登録された。
1996年12月のアジアカップでこの町に2週間ほど滞在した。グループリーグから準々決勝まで、日本の全4試合がここで行われたからだ。
日本の試合がない日には大会組織委員会が出してくれたメディア用のバスでアブダビやドバイの試合に出掛けた。試合が終わってアルアインに帰るのは夜中過ぎ。町が近づくと、この町のシンボルと言っていいハフィート山のシルエットが迎えてくれた。
現在は世界遺産の一部になっている標高1249㍍の岩山には、その稜線(りょうせん)に添うように道路が敷設され、街路灯が夜空に山のシルエットを浮かび上がらせていたのだ。アブダビやドバイからの「バス旅行」はわずか2時間。それでも、単調さに飽きたころに現れるハフィート山のシルエットは「やっと帰ってきたな」という感慨に似た感情を生んだ。砂漠を越えてアルアインに向かった昔のアラブ商人たちも、きっと同じ思いを抱いただろう。
明日の試合が行われるハッザ・ビン・ザイド・スタジアムは2014年に完成したばかりのサッカー専用競技場。収容は約2万6000人と小ぶりだが、UAEで最も熱いサポーターが待ち構える。日本代表の奮闘を期待するばかりだ。
photo by Y. Osumi
(2017年3月22日)
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