サッカーの話をしよう
No.1114 ブンデスリーガの新ビデオ副審システム
「先覚者」大相撲から遅れること半世紀でようやく「ビデオ判定」の時代を迎えるサッカー。3月3日にロンドンで開催された国際サッカー評議会(ルール制定組織=IFAB)の年次総会では、ビデオ副審(VAR)のテスト導入の継続が確認された。
昨年来、いくつかの国の下部リーグ、国際親善試合、そして12月に日本で開催されたFIFAクラブワールドカップ(FCWC)でテストが実施され、FCWCでは試合結果を左右する2つの判定がVARのアシストで行われて大きな話題となった。
ことしのテスト結果が良ければ、来年の6月から7月にかけてロシアで開催されるワールドカップでの採用が期待されている。すでに使われているゴール判定装置(GLT)との組み合わせにより、試合結果を左右する判定のミスはほぼなくなるはずだ。
そしてことし、2年目のテストには、注目の大会が加わる。メジャーなリーグとして初めて、日本人選手も多数プレーするドイツのブンデスリーガ1部全306試合にVARが導入されるのだ。しかもブンデスリーガのVARシステムは、昨年テストが行われた各国リーグより一歩進んだものになるという。
昨年のテストでは、試合ごとにスタジアム外に置かれたバンのなかにモニターを並べた部屋を設け、そこでVARがリプレーを見ながらピッチ上の主審に無線で情報を伝えるという形だった。しかしブンデスリーガでは、ケルンにある放送センターに設けた部屋にVARが陣取り、ドイツ全国の18スタジアムとの高速専用回線を通じてピッチ上のレフェリーとやりとりをするという。今後の欧州のトップリーグのスタンダードになりそうなシステムである。
VARシステムでとくに重要なのがピッチ上のレフェリーとVAR間のコミュニケーションだ。的確なタイミングで、明確な言葉で伝えないと逆に大きな混乱のもとになってしまう。ブンデスリーガでは現在主審として活動している23人のレフェリー全員に各自2回ずつのVARトレーニングを行い、この春のうちにもう1回ずつのトレーニングが行われる。さらにはブンデスリーガ・レフェリーの「定年」である47歳を超えた人のなかから、VAR専任者も使う予定だという。
Jリーグは今季放映権契約が変わり、映像制作態勢も変わった。しかし開幕から数節を見る限り、決定的な場面を確実に検証する角度からの映像がない場合も多く、VARシステムを実施するレベルにはまだ遠いように感じる。資金力が決め手になる分野だけに、広がり続ける「世界」との差に暗然たる思いがする。
(2017年3月29日)
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