サッカーの話をしよう

No.1116 ヒルズボロを忘れるな

 4月15日は「ヒルズボロの日」である。
 1989年のこの日、4月にしては気温の高い午後だった。イングランド中部シェフィールドの「シェフィールド・ウェンズデー」が所有するヒルズボロ・スタジアムでFAカップ準決勝「リバプール×ノッティンガム」が行われた。そして試合が始まって間もなく大きな悲劇が起こる。
 西側のゴール裏1階、通常ならビジターのサポーターを収容する立ち見席で、キックオフ後に入場してきた人びとの圧力で先に入場していた人びとが押しつぶされ、96人ものリバプール・サポーターが犠牲になったのだ。
 リバプールのサポーターはこの4年前にベルギーで行われた試合でユベントス(イタリア)のファン39人を圧死させる大惨事を起こしていた。ヒルズボロでも、地元警察は「彼らは泥酔し、入場券を持たない者も多数いた」とメディアに語り、「またもやフーリガンが事件を起こした」という印象を世界に与えた。
 だがその後の調査で驚くべきことがわかった。入場した大半は正規のチケットの所有者だった。泥酔者などほとんどいなかった。悲劇を生んだのは、施設の不備と警備の不手際だった。この立ち見席は鉄柵と金網で5ブロックに分けられていたのだが、警官が中央の2ブロックに規定以上のサポーターを流し込んでしまったのだ。入場できていない人が2000人もいる状況で試合を始めたことも、運営上の大きな落ち度だった。
 リバプールGKグロベラーが守るゴール側は開始直後から騒然としていた。身動きもできない混雑から逃げようと高さ2メートルの鉄柵を人びとが次々と乗り越え、広告看板まで乗り越えてゴール横にあふれるようになっていた。
 試合は最初からハイスピードの攻め合い。前半6分、リバプールFWベアズリーのシュートがゴールのバーを直撃すると、興奮は早くも最高潮に達した。その大歓声に、入場をあせっていた人びとが強く反応した。早く入ろうと前の人を押す。逃げ場のない前方の人びとが次々と将棋倒しになり、押しつぶされた。
 ゴール裏スタンドを警備していたグリーンウッドという名の警官がピッチ内に走り込み、ルイス主審に試合中止を求めたが、そのときにはすでに遅かった。犠牲者は10歳から68歳まで。多くが若者で、女性も7人含まれていた。
 幸い、Jリーグではこのような悲劇は起きていない。しかしときに何万人もの熱狂したファンを扱わなければならない人びとにとって、「ヒルズボロ」は常に肝に銘じ、理解しておかなければならない事案のはずだ。毎年4月15日に「スタジアム安全研修会」を開催したらどうだろうか。

(2017年4月12日) 
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