サッカーの話をしよう
No.1126 雨の日は滑らぬ先の取り替え式
西日本では大雨で被害が出ているが、関東地方はいまのところカラ梅雨模様。これからどうなるか...。
雨でも試合が行われるのがサッカーだ。今日のJリーグのスタジアムでは多少の雨では水たまりができるようなことはないが、ぬれた芝ではバウンドしたボールが思わぬ伸び方をして試合の行方を左右することもある。
Jリーグで近ごろ気になるのは、雨でもないのに滑る選手たちだ。試合直前にたっぷりとピッチに水をまくスタジアムも多いが、それにしても肝心なところで滑ってチャンスを逃す選手が多すぎる。そしてその原因が、シューズの選び方にあるのではないかと感じられてならないのだ。
サッカーシューズのソール(クツ底)の部分には「スタッド」と呼ばれるたくさんの突起が付いていて、それがピッチをつかまえて選手の力を推進力に変換する。
大きく分けて、シューズにはスタッドをソールと一体成型したもの(固定式)と、取り外し可能なもの(取り替え式)の2種類がある。固定式はスタッドの数が片足で10数個あるのが普通で、一般に固いピッチに適する。それに対し基本的にスタッドが片足6個の取り替え式は、ピッチが軟らかいときに使用する。
ただ固定式は足への負担が少ないので、ピッチが多少軟らかくても、ときには雨でも固定式をはく選手が少なくない。おそらく、滑って転ぶのはそうした選手だろう。
半世紀ほど前まで、スタッドは厚い皮を貼り重ねたものをくりぬいて作り、ソールにクギで打ち込んでいた。軽いアルミ製スタッドが登場しても、スタッド1本を4本の短いクギで革製のソールに打ちつける形は変わらなかった。
1954年ワールドカップ・スイス大会決勝、試合会場のベルンは雨になった。西ドイツの智将ヘルベルガーはシューズメーカーのアディ・ダスラーを呼び、「新兵器」を出すように言った。この大会前にダスラーが開発したばかりのシューズは、スタッド自体にねじをつけ、簡単に付け外しができるものだった。短時間のうちに、西ドイツ選手のシューズは「雨用」の長いスタッドに付け替えられた。
4年間無敗だったハンガリーを西ドイツが大逆転で下して初優勝を飾った背景には、選手たちの足元を支えたこの「新兵器」があった。
サッカー選手が身に着ける用具のなかでソックスの内側につけるすね当て以外ではただひとつ個々に選べるのがサッカーシューズだ。デザインや色ばかり気にしている選手がいるが、もっと基本的な機能に着目し、ピッチに適したものを選ぶ必要がある。
「雨の日は、滑らぬ先の取り替え式」ということか...。
(2017年6月28日)
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