サッカーの話をしよう

No.1127 Jリーグ・ワールドチャレンジへの疑念

 Jリーグ1部(J1)は先週末が第17節。全日程の半分を消化した。今週末の第18節を終えると、2回の週末がオフとなる。
 この期間にJリーグ主催で開催される試合がある。「ワールドチャレンジ」という初めてのシリーズである。香川真司を擁するドイツのボルシア・ドルトムントとスペインのセビージャFCが来日し、それぞれ浦和レッズ(7月15日、埼玉スタジアム)、鹿島アントラーズ(22日、カシマスタジアム)と対戦する。入場料は通常のリーグ戦よりかなり高いが、前売りチケットの販売は好調らしい。
 ことし1月、村井満チェアマンはJリーグ全体の底上げのため世界に挑戦する機会を増やしたいと抱負を語った。
 意図は理解できる。だがそれがこの試合なのだろうか。ドルトムントもセビージャもシーズン前で、トレーニングも十分でない時期にあたる。そうした時期にわざわざ時差が7時間もある日本に来て試合をするのは、Jリーグ側とはまったく違う意図があるからだ。「世界戦略」―。彼らにとってこの遠征はテレビ放映権やグッズの販売を通じて世界中から資金をかき集める「宣伝隊」にほかならない。
 本来サッカークラブの「マーケット」とはホームタウンのはず。だからこそ国内で数十ものプロクラブが成り立つのだ。だが近年、ビッグクラブはそれを国内全域に広げ、国境や大陸まで越えて世界中からカネをかき集めるシステムをつくり上げた。実際、現在の欧州サッカーの収入の6割はアジアから流入していると言われている。その結果、世界各国のプロリーグは困難な状況に立たされている。
 今回の「ワールドチャレンジ」は、そうした欧州の強豪の戦略に加担しているだけのように思えてならないのだ。
 「ことし1ステージ制に戻したのに伴い、3週間の中断期間を設けました。私自身の監督経験から、シーズンの半ばにちょっとした中断がほしいと思っていたからです」
 そう説明するのはJリーグの原博実・副理事長だ。
 「その期間を短期合宿に使うもよし、FC東京のように欧州遠征するのもよし。そのひとつとして欧州の強豪の招聘(しょうへい)を企画し、昨年のチャンピオンとルヴァンカップ優勝チームと対戦してもらうことにしたのです。必ずプラスになるはずです」
 以前と違い、欧州の強豪クラブは実戦を通じてシーズンの準備をするようになっており、選手たちも生き残りがかかっているので本気のプレーが見られるはずだと、原副理事長は強調する。
 Jリーグ強化に寄与する試合になるのか、それとも「世界戦略」に乗せられるだけなのか、しっかり見極めたい。

(2017年7月5日) 
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