サッカーの話をしよう

No.1132 必要だった『第3の判断基準』

 鹿島アントラーズがホームとするカシマスタジアムの2階席に上がると、屋根とスタンドの間に鹿島灘が見える。海までわずか1キロあまり。夏場にはときおり濃い海霧が発生するが、Jリーグの試合がこれほどの「直撃」を受けたのは初めてだった。8月5日の仙台戦、前半20分ごろにピッチを覆い始めた霧で2回の中断をはさみながら、なんとか試合は終了した。
 まず驚いたのは、オレンジ色のカラーボールの登場だった。前半25分過ぎに使用球がすべて代えられた。Jリーグによれば「雪対策」としてつくられ、主に北国のクラブに配布されているもの。鹿島は過去に豪雨や霧でボールが見えにくくなったことがあり、用意していたという。それまでの白いボールと比較するとずっと見えるようになった。
 飯田淳平主審は前後半1回ずつ試合を止めた。前半は28分過ぎから約3分間、後半は16分過ぎから約10分間。前半は「追加タイム」に加算し、後半は時計を止めた。メインスタンド上部から俯瞰(ふかん)する映像では、その時間帯にはピッチが中央付近までしか見えず、逆サイドに展開されると選手もボールもまったく見えなかった。それでもプレーが続いていたのは、ピッチレベルではある程度見えていたからだろう。
 飯田主審の判断基準は明確だった。その第一は選手の安全であり、もうひとつは正確な判定である。副審が逆サイドのタッチラインまで見通せなければオフサイドの判定を下すことができない。
 彼は運営担当者と話し、両チームの主将を呼んで状況を説明した。主将以外の選手が質問にきてもその都度しっかり対応した。両監督とも話した。審判、選手、監督、誰もが理解し合い、協力し合って試合を成立させようという姿勢は、感動的ですらあった。
 後半にあった10分間の中断後の時間表示をどうするかが徹底されていなかったこと、放送局にも伝えられていなかったことでやや混乱があったが、選手たちは中断を含めて59分間近くになった後半を最後まで集中して戦った。この状況下、誰もが全力を尽くした立派な試合だった。
 ただ、選手や観客の安全、正確な判定が可能かのほか、もうひとつ「判断基準」が必要だったのではないか。「観戦可能か」という視点だ。スタジアムとテレビでたくさんの人がこの試合を楽しんでいた。どこにボールがあるかさえわからない状況なら、試合は「商品」として成り立たないのではないだろうか。
 落雷、豪雨など、これまでもさまざまな自然現象が試合をさまたげ、ときに中止に追い込んできた。だが濃霧は想定外だった。ガイドラインの策定が急務と感じられた。

(2017年8月9日) 
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