サッカーの話をしよう
No.1133 至難のシミュレーション判定
まるでサイコロを振るようなものだな―。そう思った。「シミュレーション」の判定である。
8月13日日曜日、スペインの「スーパーカップ」第1戦バルセロナ×レアル・マドリードで、リカルド・デブルゴスベンゴエチェア主審は2つの非常に難しい判定をしなければならなかった。
レアルの1-0で迎えた後半32分、ゴールに迫ったバルセロナFWスアレスがGKを抜いたと思った瞬間に大きく跳んで倒れる。判定はPK。だがいろいろな角度からのリプレーを見るとほとんど接触はなく、私には「シミュレーション(主審を欺こうという行為)」に見えた。
しかし5分後、こんどはドリブルでペナルティーエリアにはいったレアルFWロナウドが倒れるとシミュレーションと判定、ロナウドにイエローカードを出した。だがリプレーでは、右から体を寄せたバルセロナのDFが左手をロナウドにかけながら体をぶつけており、ロナウドが倒れたのは仕方がないように見えた。PKにするかどうかは別にして、シミュレーションとは言い切れないと感じた。
ロナウドはそのわずか2分前に目の覚めるようなゴールを挙げたのだが、勝ち越し点にユニホームを脱いで歓喜を表現、イエローカードを出されていた。2枚目のイエローカードは当然退場である。この直後にロナウドは主審の背中を小突いたが、それは別の話としよう。ただ、試合は10人になったレアルが1点を追加し、3-1で勝った。
デブルゴスベンゴエチェア主審は1986年生まれの31歳。1部リーグの主審になってまだ2年だが、来年には国際審判になる予定の有望な若手審判員である。能力を評価されているからこそ、シーズン幕開けを飾るスーパーカップの主審を任されたのだ。
シミュレーションかどうか見極める最も重要な手段はポジショニングだ。近くから正しい角度で見ることができれば、判定の精度は上がる。正しいときに正しい場所にいるべく、審判たちは血のにじむような努力をしている。だがカウンターアタックをされたら近くから見るのは難しく、思いがけない角度から守備側の選手がはいってきた場合には、正しいはずのポジションでも見えない場合がある。
しかしどんな状況であろうと、主審は何らかの判断を下さなければならない。ファウルなのかファウルではないのか、シミュレーションなのかそうでないのか―。推測ではなく、自らに正直に...。
何回リプレーを見ても確信をもてない判定を、主審は一瞬のうちに下さなければならない。それは自らの決定が正しいことを天に祈りながらサイコロを振るのに似ている。
(2017年8月16日)
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