サッカーの話をしよう
No.1134 Jリーグにもほしい『開幕の輝き』
日本ではJリーグのシーズンの3分の2まで進んだ8月中旬、相次いで欧州の主要リーグが華々しく開幕した。
欧州のシーズン開幕は本当に明るい。40年ほど前の8月にイングランドのリーグ開幕日を取材したことがある。明るい土曜日の午後、徒歩やバスでスタジアムに向かうファン、サポーターの顔は、例外なく期待であふれんばかりに輝いていた。
欧州の国の大半はシーズンが秋に始まって翌年春に終わる「秋-春制」。Jリーグもこれに合わせられれば移籍などがよりスムーズになると言われている。議論が始まって長いが、いまだに結論が出ていない。南北に長い日本。北国のクラブの不安を払拭(ふっしょく)しきれないのだ。
Jリーグ以前の日本のトップリーグは「秋-春制」だった。1965年に日本サッカーリーグ(JSL)が始まったときは6月開幕、11月閉幕の「春-秋制」だったが、1986年にワールドカップ(6月)とアジア大会(9月)が重なった際に開幕を10月25日まで遅らせ、閉幕は翌年の5月17日とした。前年も閉幕は年をまたいだのだが、この年から正式にシーズン表記も「86/87」と複数年を示した。ただし当時のJSLには東北以北のチームはなかった。
それをJリーグ・スタートに当たって「春-秋制」に戻した。JSL時代と同様、当初のJリーグには東北以北のチームはなかった。積雪や寒さの心配があったわけではない。「観戦に最も適した時期に」という、「観客ファースト」の姿勢からだった。
日本の「新年度」は4月、すなわち春に始まる。学生も会社員も、桜の季節に新しいスタートを切る。私たちにはこのイメージがすっかり刷り込まれてしまっている。だがそれも、明治初頭には年度切り替えが7月と決められたのに、わずか10年余りで、しかも財政逼迫の明治政府が帳尻を合わせるために酒造税納期に合わせて強引に4月に変え、自治体、企業、学校も合わせさせられたと聞くと驚く。
ことしのJリーグ開幕は2月25日だった。3月いっぱいはダウンコートを手放せなかった。来年元日の天皇杯まで続くシーズンは、すでに「春-秋制」ならぬ「冬-冬制」と言っていい。寒さのなかの観戦も辛いが、近年では夏の暑さが厳しくなり、観戦もけっして快適とは言えない。「観客ファースト」というなら、盛夏を避けるほうがいいかもしれない。
現在のJリーグ、寒さに震えながらの開幕には、残念ながら欧州のようなはずむような明るさはない。「シーズン開幕の輝き」という要素だけでも、「秋-春制」導入の意味はあると私は思っている。
(2017年8月23日)
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