サッカーの話をしよう
No.1142 ゴールパフォーマンスの愚行の極み
愚行もここまできたか―。オーストラリア代表FWティム・ケーヒルの得点後のパフォーマンスである。
北中米カリブ海代表との最終プレーオフ出場権をかけたシリアとの「アジア・プレーオフ」第2戦。1-1で迎えた延長後半4分に彼は得意のヘディングで決勝ゴールを決めた。そして有名なコーナーフラッグに走ってのボクシングポーズではなく、両手を広げた飛行機ポーズを取り、その後両手を使って「T」の字をつくって見せた。
実はこれ、彼が最近「ブランド・アンバサダー」契約を締結したオーストラリアの旅行会社のシンボルマークだった。試合終了直後、その旅行会社が「ケーヒルが私たちの『T』を演じたのを見てくれましたか?」と得意げにSNSに書き込んだことで、意味が明らかになった。
ゴール後の過剰なパフォーマンスへの疑問については、6月のこのコラムで書いた。だがそれは、本来チームの努力の結晶であるゴールを得点者個人のものとする考え違いや幼稚さを指摘したものだった。それを「副業」にまで利用しようという選手が出ることなど想像もつかなかった。
しかも、オーストラリア・サッカーの「レジェンド」と言うべき37歳の大ベテラン選手が、ワールドカップ予選のプレーオフという、大げさな表現をすれば「生か死か」という舞台でそれほどの愚行を演じるとは!
競技規則の第4条第5項に「競技者は、政治的、宗教的または個人的なスローガンやメッセージ、あるいはイメージ、製造社ロゴ以外の広告のついているアンダーシャツを見せてはならない」と規定されている。「体を使っての商業的メッセージ」に関する記述はないが、かつて下着のパンツにスポンサーロゴを入れて得点後に見せた選手が欧州サッカー連盟(UEFA)から約1000万円の罰金を言い渡された例もある。競技規則の精神を考えれば、ケーヒルの行為も当然許されるべきではない。
こんなことが起こるのは、得点後の過剰なパフォーマンスが野放しにされているせいだ。一時、FIFAは得点後に抱き合う行為などを禁止しようとしたが「喜びの自然な表現」は認めることにした。だが現在の世界で横行しているパフォーマンスは明らかに過剰で不自然だ。10月10日のパナマ対コスタリカでは、パナマが得点してからコスタリカがキックオフするまで実に3分間を必要とした。
パフォーマンスはサッカーの本質とは何の関係もない。「世界の一流選手がやっているから」では、あまりに貧しい。自分たちの姿を冷静に顧みて、そのばかばかしさに気づかなければならない。
(2017年10月18日)
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