サッカーの話をしよう
No.1144 雨に強いピッチをどうつくる?
優勝争い、昇格争い、そして残留争い...。シーズン終盤を迎えたJリーグ。J1からJ3まで合わせて20試合が行われた10月29日は、日本の南岸に沿って西から東へ走り抜けた台風22号に襲われた。
J2の名古屋グランパス×ザスパクサツ群馬は、ちょうど台風が紀伊半島の沖を通過中の試合。強風と激しい雨で前半23分に試合が中断され、再開までなんと54分間かかった。J3のアスルクラロ沼津×セレッソ大阪U-23では、雷が近づいたため後半に19分間の中断があった。
前日からの雨、そしてこの日の豪雨で、どのスタジアムも芝生に水が浮き、通常の状態からほど遠かった。グラウンダーのパスが多いサッカーでは、水がたまるとボールがそこで止まってしまい、思いがけないことが起こる。
だがいろいろな試合を見比べてみると、最もピッチ状態が悪かったのは、私が取材したJ1の柏レイソル×川崎フロンターレ、日立柏サッカー場での試合だったようだ。ウォーミングアップ開始前から大きな水たまりがいくつもあったが、水たまりに見えないところも実際には水が浮いており、ペナルティーエリア内でもボールを落とすとまったくバウンドしなかった。
アップ終了後、キックオフを30分間遅らせ、手押し式排水機5台をフル稼働させて排水作業が行われた。最後には雑巾まで持ち出した作業には頭が下がったが、水たまりは見えなくなったものの試合が始まるとボールはいたるところで思いがけない止まり方をし、選手たちを苦しめた。
大雨というと、1993年の国立競技場を思い出す。日本で行われたU-17ワールドカップの最終日は、午前中まで台風の影響で豪雨。主催の国際サッカー連盟(FIFA)は3位決定戦を中止にして決勝戦だけにする方針を決めた。しかし日本側はとにかく競技場に行って最終決定をしようと主張。昼すぎに雨が上がって競技場に行くと、ピッチは何もなかったかのように光り輝いていた。FIFAが2002年ワールドカップを日本に任せてよいと確信した瞬間だったという。
現在のJリーグの「スタジアム検査要項」のピッチの項には、「水はけがよいこと」という抽象的な基準しか書かれていない。水はけを良くする工事自体は複雑なものではないが、工事から何年かすると当初の排水能力を保てなくなることもあり、数値的な基準をつくることが適切かどうか難しいところだという。
年々過激さが増し、「想定外」が続出する印象がある日本の自然。そのなかで「雨に強いピッチ」をどうつくり、維持するか―。全国のスタジアムが協力して取り組むべき課題ではないだろうか。
柏では懸命に作業が行われたが...
(2017年11月1日)
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