サッカーの話をしよう

No.1148 強度の高いサッカーは月一?

 ワールドカップ抽選会が目前に迫り、緊張感が高まってきた。来年のロシア大会、日本はどんな相手と対戦することになるのだろう。
 ひとつだけ確かなのは、どんな組分けになっても、3つの対戦チームはすべて個々の力なら日本より上であるということだ。だからこそ、ハリルホジッチ監督は前線からのプレス、それが効かないときの守備ブロック、そしてボールを奪ってから縦に速い攻撃を強く志向する。
 「ワールドカップに向けていい準備になった」
 そのハリルホジッチ監督を喜ばせたのが、25日のAFCチャンピオンズリーグ(ACL)決勝の浦和レッズだった。サウジアラビア代表をずらりと並べ、高い個人技とともに組織的な攻撃を売り物とするアルヒラルを、浦和は前線からの果敢な追い込みとチーム一丸の守備で止め、そこから速い攻撃を繰り出した。そして1-0で勝ち、アジア王者の座を射止めた。
 アジアサッカー連盟(AFC)が発表したこの試合のデータを見ると、8月31日に日本代表がオーストラリアに2-0で勝ってワールドカップ出場を決めた試合と驚くほど似ている。ボール支配率は40%を割り、パス本数は相手の約半分でその成功率も70%程度、相手より10ポイントも低い。しかし「デュエル(一対一のボール争い)」と空中戦の勝率で相手を上回り、インターセプト(パスカット)の数で相手を圧倒する...。
 日本代表の試合でもないのにハリルホジッチ監督が「いい準備になった」と語ったのは、日本のクラブがこうしたサッカーをすることが代表の強化に直結するという意味に違いない。浦和は10月のACL準決勝の上海上港(中国)戦でもこのサッカーでハリルホジッチ監督を驚喜させた。
 激しくプレスをかけ続け、スプリントを繰り返すサッカーを、最近では「インテンシティーが高い」と表現する。「強度が高い」と言ってもよい。けっして「楽しい」サッカーではない。しかし世界を相手にしたら、こうしたプレーでなければ対抗できない。
 大きな問題は、浦和もこのレベルのサッカーができるのは月にいちど程度しかないということだ。欧州では、とくにイングランドのプレミアリーグでは、毎週、ときには週に2回もこんな戦いをしている。ワールドカップで日本が対戦するチームは、選手の多くが日常的にそうしたリーグでプレーしているのだ。
 Jリーグのシーズンはもう終わろうとしている。しかしワールドカップ前には来シーズンの前半戦がある。そこで「インテンシティーの高い試合」をひとつでも増やすことが、日本代表への何よりの後押しとなる。

(2017年11月29日) 
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