サッカーの話をしよう
No.1154 色覚多様性への配慮を
2月下旬の新シーズン開幕に向け、Jリーグのクラブが続々と新体制を発表し、併せて新シーズンのユニホームもお披露目している。
25年前のスタート時以来、Jリーグのユニホームに私は大いに不満をもってきた。アップで見たときのデザインばかりが優先され、緑のピッチ上に11人が散ったときの見やすさという最も重要な要素が後回しにされてきたからだ。
だがそれ以上に、Jリーグ自体に、見分けやすいユニホームで試合をさせようという意識が低いように感じる。昨年3月のJ2「岐阜×松本」で緑とグレーのユニホームの見分けがつかず後半から岐阜が白に変えたという事件はプロとして論外だが、それ以外にも「見分けづらい」と感じる試合が、とくにテレビ中継を見ているとたくさんある。
欧州サッカー連盟(UEFA)機関誌の最新号(第174号)に「色覚異常とサッカー」に関する記事があった。
色の認識が多数の人と異なる状況をもつ人の割合は、日本では5%、欧州では8%にもなり、その大多数が男性だという。ある種の職業では業務が難しいこともあるようだが、差別につながらないようにと、日本では昨年来「色覚多様性」と呼んでいる。
サッカーは「色の世界」である。2つのチームは色で区別し、選手も観客も、ユニホームの色を頼りに試合を楽しむ。それが一部の人にとって見分けにくいものだったら、その人びとは楽しみの大きな部分を奪われていることになる。相手とのユニホームの区別ができずに「自分はサッカーが下手」と思い込んでしまう少年が、日本でも20人に1人、欧州なら12人に1人もいるとしたら、心が痛む。
スポーツの世界でこの問題に最初に手をつけたのは2016年、アメリカンフットボールのNFLだった。赤と緑の対戦を「赤対白」にさせたのだ。だがユニホームメーカーからの要請を受けたクラブの反対により、わずか1年で取りやめになった。
しかし昨年6月、イングランド・サッカー協会が専門家の意見を聞いて多用な色覚をもつ人への配慮を求めるガイドラインを発行した。ユニホームだけでなく、ボール、ビブスやマーカーコーンなどの練習用具、スタジアム内の案内板や入場券を買うためのサイトの色の使い方にいたるまで、細かく解説されている。その考え方は、急速に欧州各地に広がろうとしている。
日本では、デザインやウェブサイトの設計で配慮が行われており、見分けやすい交通信号の開発も始まっている。しかしスポーツ界ではまだこの問題は看過されたままだ。
「色の世界」であるサッカーには、この問題の研究や対策を率先して進める責務があるように感じる。
(2018年1月17日)
1993年から東京新聞夕刊で週1回掲載しているサッカーコラムです。試合や選手のことだけではなく、サッカーというものを取り巻く社会や文化など、あらゆる事柄を題材に取り上げています。このサイトでは連載第1回から全ての記事をアーカイブ化して公開しています。最新の記事は水曜日の東京新聞夕刊をご覧ください。